韓国 "分裂"の考察

朴槿恵大統領が罷免された。

崔順実への怒り・光化門における「ろうそく」デモは想像を絶する推進力を生んだ。一方で、朴槿恵大統領を支持・「太極旗」デモも日を追うごとに勢いが増した。

李貞美所長代行の冒頭供述「国論分裂と混乱が終息することを望む」は弾劾政局が韓国一国にもたらした対立とそのダメージの大きさを物語っている。

しかし、なぜ対立・分裂がここまで激化したのだろうか。

ここでは、考察の手掛かりとして専門家の方々が先行研究及びメディアで表明されてきた4つの「対立」; ①地域対立イデオロギー対立③世代間対立④「制度圏」と「運動圏」の対立、を取り上げる。

 

①地域対立(慶尚道、嶺南ー全羅道、湖南)→△

著名な先行研究として、

・森康郎『韓国政治・社会における地域主義』(社会評論社、2011年)

・梅田皓士『現代韓国政治分析ーー「地域主義・政党システム」を探る』(志學社、2014年)

が挙げられる。両者とも過去の大統領選挙、総選挙の投票データを分析し、地域対立の有無を考察している。経済・社会的要因に関しても考察を加える。一般に、1971年の大統領選挙(朴正煕vs金大中)を除くと、地域主義が芽を吹いたのは民主化以降; 特に金泳三と金大中の対立が地域主義的投票行動を生んだとされる。

現在においても、地域主義的傾向は一定程度見られる。昨年の総選挙では形勢不利と見られた国民の党(旧金大中派)が光州・全羅南道でほとんどの議席を確保、黄教安大統領代行は大邱慶尚北道で文在寅元代表以上の支持を得ている(2017年2月3~4日、ハンギョレ・リサーチプラス)。

しかし、なおそれでも地域主義は従来に比べると薄れていると言えるだろう。昨年の総選挙では、金富謙が保守の地盤とされる大邱議席を得た。李貞鉉元セヌリ党代表は全羅南道出身で秋美愛共に民主党代表は大邱出身だ。朴槿恵弾劾政局では大邱を含め、嶺南でも支持基盤が崩壊→下野要求運動が起こった。

いまだに、選挙においては地域主義的投票行動がデータとして表れている。しかし、それらは朴正煕→朴槿恵・金泳三・金大中という人物中心の地域主義であるという認識が成り立ち、徐々に色が薄まっていくことが予想される。先の意味において、地域主義的対立は深刻ではないと解釈することが出来る

イデオロギー対立(保守ー進歩)→○

一見すると、韓国の保守ー進歩対立はとてつもなく大きく見える。しかし、見方を変えれば、そうではないと言うことも可能だ。

まず、そもそもの韓国の保守ー進歩をどうとらえるべきかと言う問題がある。

木宮先生は「保守派と進歩派の分裂は、日本の1955年体制の保守と革新ほどの違いはないが、韓国では大きな違いと認識されているのが現状」であると説明する。

パストリッチ慶熙大学副教授は「米国の場合、進歩と保守の基本的な思考方式はあまりにも違うので対話はまず不可能」であると述べ、全員一致の罷免という決定に韓国の特殊性を感じたようだ。

言い換えると、両者ともイデオロギー対立は一般的理解と比べて大きくないという立場だ。

次に、将来における対立の解消可能性という問題がある。

知り合いの大学院生によると、韓国において自由主義的言論空間が発達しなかったことが問題であると言う; 大韓民国建国の際の左派排除→半権威主義体制下で極右の言論に統一され、それに対抗した80年代のNL・PDは極左である。概して自然であるが、民主化以前に中道路線は存在せず、右左というイデオロギーだけが顕著に表れる状態が民主化以降も残存した。

こうした文脈において、安哲秀旋風と第三極の出現は韓国政局の新たな変化である。現在、"anything but 朴槿恵"が文在寅候補の背中を押し、第三極はその勢いに陰りを見せているが、長期的に見て、中道の躍進の可能性は十分に残されている。

つまり、イデオロギー対立は国民認識レベルの問題として大きな壁として存在するが、政治実際レベルでは解消不可ではないと解釈することが出来る

③世代間対立(若者、20~30代ー高齢者、50代以上)→◎

 世代間対立が最も根の深い対立問題であると言えるのではないか。世代間対立は主として盧武鉉大統領登場と共に現れた。理由は2つ; 1) 三金に対する新世代の象徴として国民が彼の進歩的思考に期待した、2) 相対する李会昌が旧世代の保守を代表する人物だったからである。

その後、20年が経過するが、保守ー高齢層、進歩ー若年層という傾向は韓国経済の相対的停滞と若年層の不遇という媒介変数を加え、むしろ増大しているように見える。「ろうそく」デモと「太極旗」デモは若者 vs 高齢者という構図を象徴していた。

筆者の知る限り、世代間対立に関する先行研究はあまり存在しない; 同分野における研究が急がれると思う。若者 vs 高齢者という構図の原拠、固定化について究明される必要があるだろう。

ともあれ、現在見受けられる世代間対立は解消の見通しが立たない。ほぼ全ての若者が朴槿恵大統領の罷免に歓喜したという事実は軽視できない。

④「制度圏」(政府、議会、政党政治)と「運動圏」(知識人、学生)の対立→○

小此木先生の卓越した分析軸である。だが、少々古い印象を受けないでもない。

小此木先生は今回の弾劾の過程で、国民の支持が「運動圏」に一気に傾いたことを韓国政治の変化としてあげる。「軍事独裁政権のもとで形作られた「制度圏」と「運動圏」の分断と対立が今回、かつてないほど極端に噴出した」と述べられているおり、それらはイデオロギー対立と大いに重なる部分もあるのではないかと感じる。国民の支持が一時的に、進歩=「運動圏」に傾いたと理解できる。

政治的イデオロギー対立の見方と異なる点は、「制度圏」に対する「運動圏」の優位性はより長期的に持続する可能性が高いということだろう。そして「運動圏」は歴史的に見ても、弾劾政局から判断しても圧倒的進歩勢力である。つまり、国民の支持が「運動圏」に傾き続けるならば、進歩派の優位が当分続くと言うことになるだろう。しかし、中長期的にはどうだろう;「運動圏」の成功条件は焦点の統一&短期決戦であり、それらのためには何かしらの国民を揺り動かす出来事が絶えず必要ということにもなり得る。

 

以上、4つの「対立」について論評を加えてみたが、果たしてこれらの分析軸(単独またはミックス)で韓国の国論分裂は説明できるのだろうか。それとも、4つの「対立」以外の新たな対立軸の発見が必要なのだろうか、上記のコメントを参照にして考えていただけたら幸いである。