日本・韓国 慰安婦問題: 後編

f:id:unotama:20170301135609j:plain

 

②12・28合意とその後

急転直下の12・28合意と書いたが、基本的枠組みは「佐々江案」であると言われている; つまりは、野田ー李明博政権期に基礎を置いているということだ。次に、実質的な交渉が谷内正太郎ー李丙琪ラインで為された。朝日新聞の箱田編集委員は「ワーディング」に時間を費やしたという表現をされていた。長期にかけて辛抱強く交渉を続けた結果でもある。

次に合意の特徴・評価をまとめる。

  • 合意の特徴

1. 慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。

日本政府が「軍の関与」を認めている、「責任」を痛感しているとし、法的責任・道義的責任とも言っていない。

2. 安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する。

内閣総理大臣という資格で、公式に謝罪をした。

3. 今般、日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。

日本政府の予算による一括支出であることを明確にした。

4. 今回の発表により、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。日本政府は、韓国政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える。

最終的かつ不可逆的であるという両政府の確認。

5. 韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても,可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する

慰安婦像の移転は努力義務である。

  • 合意に対する評価

+: 両首脳間で合意が得られたこと; ハルモ二が生きている間に補償を行うことが可能になった。

+: 合意は佐々江案よりも進展している。

+: 日韓のメディアは合意を歓迎、日本のほぼ全ての政党が合意に肯定的。

-: 根回しの不足; 被害者・関連団体の反発。

-: 日本政府による「戦争犯罪」が認定されていない、「法的責任」が明記されていない。

-: 慰安婦像/少女像の移転に言及; 努力義務に対する日韓双方からの批判。

 

合意における最終的かつ不可逆的であるという文言には日韓双方の思惑が込められている。最終的というのは日本の希望であり、不可逆的というのは韓国の要請でもある。日本としては、慰安婦問題を度々蒸し返されることに対する不満があり、合意をもって終わりであるという意思があった。一方、韓国としては度重なる日本側の「妄言」に不満があり、繰り返させないという意図があった。

 

現在のところ、合意自体は着実に実行されている。しかし、中身が伴っていない。

12・28合意後、日韓で何が起こったのか、整理してみよう。

2015年12月28日: 日韓合意

2016年1月14日: 桜田義孝; 慰安婦は「職業としての売春婦だった」

2月25日: 稲田朋美; 慰安婦像は「撤去していただくことが前提」: 10億円の拠出条件

4月13日: 韓国総選挙→セヌリ等の惨敗

5月31日: 慰安婦財団準備委員会が発足→法的責任と10億円の関連性について、金兌玄理事長の発言にブレ

6月9日: 挺対協など「正義・記憶財団」を設立

7月10日: 参議院選挙→自民党勝利

7月20日: 「言論NPO」と「東アジア研究院」による世論調査慰安婦合意について、日本側「評価する」47.9%「評価しない」20.9%、韓国側は「評価する」28.1%「評価しない」37.6%

7月28日: 韓国政府「和解・癒し財団」を設立; 乱入劇→金兌玄理事長にカプサイシンスプレー

8月24日: 日本政府10億円拠出を閣議決定

8月30日: 元慰安婦13名が韓国政府を相手に1人当たり1億ウォンの賠償を求めてソウル中央地裁へ提訴

9月7日: 日韓首脳会談: 合意を引き続き誠実に実施していくことで一致

10月3日: 安倍首相、お詫びの手紙について「毛頭考えていない」と否定

10月11日: 「和解・癒し財団」、慰安婦被害者への支援金申請受付を開始(生存者: 1億ウォン、故人: 2000万ウォン)

12月9日: 朴槿恵大統領の弾劾訴追案が可決

12月23日: 合意当時の存命の方々46人の内34名が支援金受け入れ。

12月30日: 釜山の日本総領事館前に新たな慰安婦像の設置

2017年1月9日: 長嶺駐韓大使が一時帰国

 

パットナムのTwo-level game theoryを参照すると、外交交渉における合意は"Win-sets "(お互いが国際・国内レベルにおいて受け入れ可能な内容)の範囲内で行われるという。2015年末の慰安婦合意はまさしくギリギリの"kinky win-sets"の上で成り立った合意であると言えよう。しかし、日韓両国は合意以後、その精神から徐々に遠ざかってしまった。

 

自民党内からの軽率な発言(それは必ずしも誤ったものではないが)1月14日→桜田義孝、2月25日→稲田朋美、10月3日→安倍首相は韓国の世論悪化を招いた。7月28日の記者会見場乱入劇とカプサイシンスプレーの噴射は日本人に異質感を醸成し、悪い報道効果を生み出した。陳昌洙の言う"雰囲気づくり"に失敗した韓国では合意が着実に実行されているものの、日本政府が重視していた慰安婦像移転の努力義務を果たすところまでは叶わず、合意の履行の途中に朴槿恵大統領の弾劾が可決した。合意そのものがギリギリであり、元々危ぶまれていた履行が、朴槿恵セヌリ党の退場とともに更に難しくなったと日本人は感じている; 追い打ちをかけるような釜山ー日本総領事館前の新たな慰安婦像の設置とその認可及び放置は合意の破棄に近い意味合いを持った、という日本の世論が安倍政権の長嶺駐韓大使が一時帰国→長期化という結果を招いたのだろう。

 

ここまで慰安婦問題に関して過去の経緯と厳しい現状を振り返ってみた。

それでは、今後どのような措置が望ましいのだろうか。

まず日本側から、

1. 長嶺駐韓大使を帰任させる。大使の不在は幅広い交渉ツールの放棄に等しい。慰安婦問題に関して、厳しい韓国世論は放置していても何も変化しない; むしろ悪化させるだけであり、それらが若者を支えられていることを考慮すると、後回しという手段は将来の日韓関係に悪影響をもたらすだけである。

2. 適切な地位にある者の、ハルモ二に対する謝罪文の読み上げもしくは手紙伝達。細かい事実関係はともかく、加害者の立場として誠意のある謝罪の態度を見せる必要がある。ただし、それを釜山の慰安婦像設置とリンクさせない注意も必要だ。

次に韓国側へ

1. 釜山の慰安婦像を撤去慰安婦合意においてはハルモ二の名誉と尊厳の回復が最も大切である。しかし、大きなフレームワークで考えたとき、「外国公館前に造形物などを設置するのは国際的な プロトコル(外交儀礼)に鑑み適切ではない」と発言した尹炳世外相の認識は正しい。日本国民が慰安婦問題を超越した"挑発"と捉えていることを踏まえれば、公館付近の慰安婦像設置は国内変数を加えたとしても正しくない。

2. 研究報告書の周知。すでに白書としての公表は見送られ、民間の研究報告として取り扱われることが決まっているが、専門家の良識のある意見もしっかり取り入れるべきである; 慰安婦の研究等々彼らが一番情報を持っている。

双方に

1. 元慰安婦の方々との直接対話。慰安婦関連のセッションに参加した際に感じたのは運動団体の影響力である; 慰安婦をサポートする日本の市民団体の主張は強く、残念ながら妥協の余地がないと感じさせた。挺対協含め、彼らの活動は25年に渡り、要求を下げることが不可能に近い事は理解できる。だが、元慰安婦の方々が高齢であり、補償金を受け取る意思を示した人数を考えてみると、相違があったとしてもおかしくない。

2. 政府関連団体によるフォローアップ

アジア女性基金の際、償い金を受け取ったハルモ二は名誉回復どころか、逆に立場を悪くした。今回は「和解・癒し財団」からの治癒金ということで、受け取りやすくなっているとは思うが、慰安婦合意によって拠出されたお金を受け取ることで、白い目で見られるといった事態があってはならない。プライバシーを考慮しつつ、彼らの最後を政府が見守り・管理することは、被害者の方々が高齢であること・問題の大きさを考慮すると、大切であると思う。

3. 象徴的な事業: 歴史を繰り返さないという教訓

ドイツと日本を単純比較することは避けたいが、ワルシャワでひざまづいたブラントとヴァイツゼッカーの演説は和解の"象徴"だ。日本政府と韓国政府には声明以外の部分での"最終的かつ不可逆的解決"が求められているのではないか。日本国民・政府は反発するだろう、そして現在ある「和解・癒し」財団は個人への治癒金がメインである。しかし、それらを一歩超えて将来へとこの問題を引き継がせない意思が必要だ。12・28合意は始まりでも終わりでもない、問題を解決させる途上の合意である。