Neoclassical realism
国際政治理論について書こうと考えていたのですが、
はじめに、ネオクラシカル・リアリズムについて整理します。
ネオクラシカル・リアリズムという概念を広めたのはギデオン・ローズです。
今回はギデオン・ローズの論文を通して、ネオクラシカル・リアリズムへの理解を深めます。
Gideon Rose. "Neoclassical Realism and Theories of Foreign Policy". World Politics 51 (October 1998), 144-172.
論文の目的・・・ネオクラシカル・リアリズムの主要な研究の特徴について議論し、学問への貢献を評価する。
Key term・・・Neoclassical realism, foreign policy, relative power, independent /intervening / dependent variable, syetemic / domestic factor
Introduction
ネオ・リアリズムーケネス・ウォルツ
対外政策(Foreign policy)はネオ・リアリズムの射程外→新たな対外政策理論の構築する必要性があった⇒現在までに行われた理論構築の試みは以下の4つに分類することが出来る。
①Innenpolitik theoryー国内政治レベル
②Offensive realismーシステムレベル(ハード)
③Defensice realismーシステム要因(ソフト)
④Neoclassical realismーシステムレベルと国内政治レベルの双方を考慮する・・・1. 独立変数: 国際システム(パワー)が→ 2. 媒介変数: 国内要因を通して解釈される; 政治エリートの認識が対外政策を決める。
Four Theories of Foreign Policy
①Innenpolitik theory
独立変数は国内政治ー政治経済的イデオロギー、国家の性質、政党政治、社会経済的構造。
問題点ー類似のシステムを持つ国家が異なる行動をすること; 異なるシステムを持つ国家が似たような行動をすること、を説明できない。
②Offensive realism
独立変数は国際システムの構造ー相対的パワーと外的環境が国家を攻撃的にする。
問題点ー似たようなパワーを持つ国々が異なる行動をすること、を説明できない(Defensive realismと同じ)。
③Defensive realism
独立変数は主に国際システムの構造ー国家はシステム要因に従って合理的な反応をする。非合理的な行動: 軍事行為等は国内政治要因から説明する。
問題点ー似たようなパワーを持つ国々が異なる行動をすること、を説明できない(Offensive realismと同じ)。
→①~③に共通する問題点ー過度の単純化(oversimplified)、不正確性(inaccurate)
⇒Neoclassical realismが登場した。
ネオクラシカル・リアリストは以下のように議論を展開する。
・Innenpolitik theoryー国内政治要因が唯一外交政策を規定していることを批判。パワーを軽視している。
・Defensive realismーパワーを軽視している。システムレベルでの議論は実際の国家の行動を説明しておらず、国内要因が後付けとして用いられている。
→メインの独立変数はあくまでも相対的パワー(relative power)であるべきである。
しかし、Q. 相対的パワーとは何か。
A. 1) パワーリソース、2) 国家の対外政策における"利益"。
・Offensive realismーシステム要因はそのまま外交政策に直結しない。
→媒介変数として国内政治構造/政策決定者の認識を考慮する必要がある。
Neoclassical realismはシステム要因と国内政治要因の双方に留意する。
→Neoclassical realismは構造理論(ウォルツ)とコンストラクティヴィズム(ヴェント)の中間に位置する。
システム要因ーOffensive / Defensive realism の前提は過ち: ホッブス・カント的価値観は間違い。
国内政治要因ーInnenpolitik theoryは測定困難な国際政治を主観的物差しで測っている。
しかし、 Q. Classical realismとの違いは何か。
A. 1) 前提条件、2) 目的、3) 方法論
→Neoclassical realismは対外政策の理論であるー相対的パワーが対外政策に与える影響を明らかにしている。
Neoclassical realismの原型はツキュディデスの「戦史」: 叙述形式が基礎; 代表的論者は以下の通り。
ファリード・ザカリア・・・アメリカ
ウィリアム・ウォルフォース・・・ソ連
トーマス・クリステンセン・・・アメリカと中国
ランドール・シュウェラー・・・第二次世界大戦
The Rise and Fall of the Great Powers
Neoclassical realismには3つの波があった。
①ロバート・ギルピン、ポール・ケネディ、マイケル・マンデンバーム
→長期的観点において、大国の興亡と相対的パワーには明らかな相関関係がある。
②アーロン・フリードバーグ、メルビン・レフラー
→相対的パワーが特定の国の対外政策へとシフトする過程を研究;
フリードバーグ・・・国内政治要因を含め、包括的な考慮が必要である。
レフラー・・・相対的パワーの変化が政策決定者の認識に影響する。
③ザカリア、ウォルフォース、クリステンセン、シュウェラー
先行研究が特定のケースに偏り→他への適用可能性を検証しようとした「どのようにして大国が相対的パワーの上昇/下降に対応するのか」。
Perception and Misperception in International Politics (媒介変数その1)
相対的パワーが政策に与える影響は二次的であるという事実。
→政策決定者の認識、という変数を加える。
フリードバーグやコヘインは合理的な計算に基づいて政策決定者の認識を強調する。
→ネオクラシカル・リアリストは認識は往々にして不正確で誤解を招いていると主張; 特に短期・中期におけるパワーに対する認識はラフであり、気まぐれである。認識は長い時間をかけて徐々に変化していく。
ウォルフォースやレフラーの研究
→最終的には、相対的パワーが認識に影響を与える。(しかし、ウォルフォースによれば、対外政策は相対的パワーと別の要素を組み合わせた認識によって変化するという)
ザカリアやクリステンセンの研究
→「ショック」を重要視する; 政策決定者は長期にわたる緩やかなパワーの変化に突然気付く。
シュウェラーの研究
→パワーの分布に対する誤認がWWIIを招いた。
Bringing the State back in (媒介変数その2)
ザカリアとクリステンセン
国の統治能力と社会環境を変数に加える。
ザカリア・・・1) 政府のパワー(state power): 政府が引き出し目標達成のために利用できる力、2) 国家のパワー(national power): 国それ自体が持つパワー、を区別。
クリステンセン・・・戦後の米中関係を以下のように説明。1) WWII後~1972年ーInnenpolitik: 対外政策の変化は困難を伴った→2) 1972年~ーRealism (balance): バランス・オブ・パワーの変化を認識した結果、対外政策の転換が行われた。
他に考慮される変数
フリードバーグ・・・非構造的要素(non-structual factor)
シュウェラー・・・国家の目的・関心の性質(the nature of state's goal or interests)
Designing Social Inquiry
ネオクラシカル・リアリストの主張
①相対的パワーと対外政策の因果関係を明らかにする必要がある; 従来のリアリズムに欠ける視点。
②純粋なる実証主義・解釈主義は対外政策分析の正しいアプローチではない; 簡潔性と詳細な分析の両立が求められる。
③研究対象とする地域の専門的知識は国家の対外政策を理解する上で不可欠である: 語学能力と公文書の利用。
しかし、Q. それらは対外政策の "理論" と言えるのか; 簡潔性や視座を与えてくれるのかと言う議論があら。
A. Neoclassical realismは独立・媒介・従属変数の因果関係を明らかにしており、対外政策が変更し得る条件を明確にしている。
Gideon RoseはNeoclassical realismを評価する。
Neoclassical realismは理論の簡潔性を失うことなく包括的な対外政策の説明を可能にしたmidrange theoryである。
Conclusion: the Road ahead
Neoclassical realismの課題
①依然として客観的なパワーと政策決定者の主観的評価の関連性が曖昧である。
②国家形態がパワーの利用に与える影響の更なる分析が必要。
③相対的パワーと対外政策の関連性の説明が求められる。
④重要な論点: 例えば、何が相対的パワーの増減に影響するのか、改めて注意を払うべきである。
⑤Neoclassical realismの前提を維持しつつ、独自性を発展させること; 1) 独立変数はシステムレベルであるーInnenpolitik theoryに傾き "何でも屋" になってはならない、2) Offensive realismやDefensive realismとは異なる理論; 歴史的偶然性と必然性の双方を考慮すること。
⑥結局のところ、紛争が勃発するか否かは国々の決断次第であるという問題。
Gideon Roseの結論;
上記で述べた課題があり、Neoclassical realismが理論の説明・予測能力に対して謙虚であったとしても、それは理論の欠陥とはなり得ない; むしろ客観的探求に基づく賢明な評価であり、美徳として捉えるべきである。