台湾 蔡英文政権

蔡英文が総統選挙で当選してから早1年、5月20日の就任から7ヶ月半が経った。高い期待感を背負って総統に当選→就任した蔡英文であるが、今や支持率は30%以下まで下がっている(もっとも就任時には40%まで下落していた)。

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出典:TVBS民調報告より筆者作成。

今回は、蔡英文政権の内政について俯瞰する。

馬英九が再選を果たした2012年以降、成長率は下げ止まり: だいたい0~3%、若年失業率は高止まり: 絶えず10%以上、を記録した。就任式では、1) 経済構造の転換2) 社会のセーフティーネットの強化3) 社会の公平と正義4) 地域の平和的安定発展と両岸関係5) 外交およびグローバルな課題、を大きなテーマとして表明し、内外で構造転換を行う姿勢を示した。内政に関連する課題は1)~3)に当たるので、それらを中心に考察してみよう。

 

①経済構造の転換

2015~2016年の成長率は0%代に留まり、国際競争力の回復が求められていた。

まず、蔡英文政権が経済発展モデルへの転換として掲げているのが「五大イノベーション計画」バイオテクノロジー・アジアシリコンバレー・スマート機械・自然エネルギー・国防産業)+2(新農業・循環型経済)である。プロジェクト自体は各々批判を受けつつも着々と進んでいるように見える*が、自体が多額の税金の投入を必要とするために、社会的支持を得→効果の実現するまで、に時間がかかるという難点がある。

*沙崙科学城計画(2016年11月6日始動)、台湾国際農業開発股份有限公司の設立(2016年12月5日)、アジアのシリコンバレー執行センターの発足(2016年12月25日)「脱原発」法案の成立(2017年1月11日)等。

次に、参入障壁の低い多国間協定: TPP、RCEPへの参加に言及している。しかし、TPPはアメリカが離脱をし、RCEPはそもそも中国が参加を認めるのかという問題がある。「新南向政策」についても同様; 中国の妨害を受ける。

新たなイノベーションモデルが効果を発揮するまでが正念場となる。自由貿易とそれに伴う市場の拡大は、保護主義の蔓延・中国ファクターが作用するため順調とは言えない。台湾の低成長率が近未来に改善するとは思えず、蔡英文政権が経済で恩恵をあずかることは難しい: 低支持率に直結する経済の低迷であるが、耐え・忍ばなければならない。

 

②社会のセーフティーネットの強化

本人の回顧録によると、蔡英文は「セーフティーネット」という言葉が大好きらしい。

ここで最優先課題となるのは、年金制度改革である。

1) 不公平→軍人・公務員・教員には利子率18 パーセントの優遇貯金制度があり、支出を圧迫している。

2) 破綻の危機→日本以上の高齢化現象が財政を圧迫しており、おおよその年金制度は2020~2030年までに破綻すると予想されている。

国民党が優遇してきた軍人・公務員・教員は数としては少数に過ぎない。しかし、既得権益層は制度改革に猛烈に反対しており、昨年9月3日には15万人がデモ行進をした。

改革を進める上で、受給を遅らせ負担を増やす措置が必要となるが、こちらも一般市民の反発を招くことになるだろう。

そして現状においては、改革に対する不満意度(47%)が満意度(26%)を大幅に上回っており、2017年は年金制度改革で揺れる1年となることが予想される。

週休二日制の妥協案とされた、「一例一休」制度は立法院を通過した。同制度に関しては、得失点両論。東京外国語大学の小笠原先生は、「現場での混乱が続いて」おり、「蔡英文政権手痛い失点となった」とも評している。

③社会の公平と正義

この3つ目の要点に関しては比較的順調であるように見える。

国民党の不当財産については、「不当党産処理条例」を可決し、執行道中とはいえ移行期正義を前進させている。

また、蔡英文国家元首として初めて先住民に公式謝罪をし、「原住民歴史正義和転型正義委員会」を設置した。

移行期正義という問題は、他国の例からも明らかであるように、1つの過ちが分断を生み出す要因になる。慎重が要される項目ではあるが、成熟した台湾社会と蔡英文の政策は今のところ大きな反発を生み出していない。

同性婚の法制化はこの先数ヶ月が鍵となりそうだ。審議・協議中。

 

結論: ①・②・③より

蔡英文政権発足から7ヶ月半が経ち、改革としては、前進した項目もあれば停滞している部分もある。総統選挙勝利当初の期待感が高かったため、その反動として、支持率がある程度下がってしまうのは致し方ない。とはいえ、満意度28%・不満意度47%という現時点での数字は、かなり低いことに間違いなく、これ以上の下降は政権運営に支障をきたしかねない。支持率の低下は林全行政院長の不人気に負う部分も大きく、陳菊の登用という最終兵器もあるので、政権のレームダック化は当分起こらないと予測される; さらに、国民党はそれ以上の危機に直面している。しかし、8年の長期政権を見通す蔡英文政権であり、スタートダッシュの失敗が俎上に載せられた今、2年目のリカバリーは重要性を帯びるだろう; 対中関係含め、今後を占う1年となる。