読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

中国 南シナ海問題

中華人民共和国

f:id:unotama:20161229042908j:plain

出典:常設仲裁裁判所  PCA Press Release: The South China Sea Arbitration https://pca-cpa.org/en/news/pca-press-release-the-south-china-sea-arbitration-the-republic-of-the-philippines-v-the-peoples-republic-of-china/

 

2016年7月12日、常設仲裁裁判所は中国の主張「九段線」を根拠に乏しいと退けた。

しかし、中国の海洋進出は留まるところを知らない。

最近では、空母「遼寧」が東シナ海→太平洋→南シナ海を航海し、対抗策を持たない台湾及び東南アジア諸国は脅威を与えた。

1974年 西沙(パラセル)諸島全域支配

1988年 南沙(スプラトリー)諸島6ヶ所占拠

1992年 在比米軍撤退→1995年 ミスチーフ礁占拠

2012年 スカボロ礁事実上支配 2014年~ 南沙諸島の埋め立て

仲裁裁判所の判決知ったことか、埋め立て→軍事拠点化を着実に進めている。

CSIS Asia Maritime Transparency Initiative https://amti.csis.org/

中国は南シナ海問題を「核心的利益」と位置づけており、域外国の干渉: つまりはアメリカや日本の介入には神経を尖らせる。

 

ここで南シナ海の歴史について簡単に振り返ってみよう。

日本が第二次世界大戦で敗戦を喫し、南シナ海の領有権は宙に浮いた状態となった。フランスはインドシナ戦争に忙殺されており、当該国は浮かぶ島々に特別大きな関心を示していなかったと言える。トマス・クロマによる「フリーダムランド」所有宣言という茶番もあった。もちろん今では、様々な歴史・知識を駆使した領有権主張がなされているので、(特にフィリピンは)「フリーダムランド」を無視することはできないのであるが。

南シナ海の領有権争いがその性質を変化させたのは、潜在的な海底油田の可能性が指摘された1968年以降だ。そしてそれを複雑にさせたのは石油メジャー。中国は特にその石油資源を欲していた。北ベトナムとの関係悪化&アメリカ軍の撤退が中国の作戦的優位な環境を作り出す→慎重に準備された作戦と紛争を経て、1974年、中国は西沙諸島を支配下に置くことに成功した。1980年代、中国が南沙(スプラトリー)諸島の領有権争いに加わった時には、すでにメインの島々は他国の領域と化しており(中華民国: 太平島(イツアバ島)、フィリピン: パグアサ島)、中国はちっぽけな"土地"しか手に入れることができなかった。そして残念ながら仲裁裁判所の判決で"岩"なり"低潮高地"と認定されるわけである。1988年、中国が南沙諸島の一部を極めて巧妙にベトナムから奪い取った。海洋調査の一環と称して、ファイアリークロス礁に観測所を建設→クアテロン礁へ上陸→ジョンソン礁での衝突→中国海軍の勝利という変遷を遂げた。ちなみにこれらの"岩"となった。1995年、フィリピンの対米感情に起因する在比米軍の撤退に機を得た中国はミスチーフ礁を占拠した。ミスチーフに関してはフィリピンのEEZ内であるという判決が出ている。

 

常設仲裁裁判所には"島"であると認めないことによって当該国の紛争を避けたいという意図があったようだ南シナ海最大の面積を持つ太平島(イツアバ島)=東京ディズニーランドバチカン市国、さえ"島"と認めなかった。中国は仲裁裁判所の判決で大きな痛手を負った。フィリピンの主張が認められることによって; どの国がどの岩を所有していようが、周囲の海域に対する権利は了解として認められた半径12カイリ以内の範囲に限られる→中国が実行支配する"岩"からただ12カイリ以上離れていれば良い。公海に所有権はない。

 

ところで、1970年代~南シナ海の所有権争いが過熱していった理由は新たなエネルギー資源の可能性であると述べた。しかし、ビル・ヘイトン『南シナ海』(2015)によれば、今までの資源開発はとてつもない金額のお金を浪費しているだけで、大した石油ガスは発見されていない(ただし、2016年トンキン湾付近で大型油田が発見されたというニュースはあった)。それが現在においてはエネルギー資源以外の様々な要素も領有権争いに絡むようになった。当該国のナショナリズムは合理性に欠いていても領有権の妥協を許さないだろう。アメリカ・日本は航行の自由を求めている。中国とアメリカ(未加盟)の国際海洋法の解釈は大きく異なり: 中国は自国のEEZ内及びその上空における他国の軍事活動を認めていない。中国が南シナ海を支配することによって、グローバル・コモンズが失われることを危惧している。中国は「九段線」に沿った自国の領域を主張しているが、実はこれには「戦略的あいまいさ」が含まれている; なぜなら国際海洋法に合わせて主張を修正した場合、浮かぶ土地周囲の狭い領域にしか主権が認められなくなってしまうからだ。

 

中国海軍の目標→1) 2020年までに第二列島線制海権、2) 2049年までにアメリカ海軍と対峙、は日本の報道に触れていると、順調に進んでいるように見える。しかし、アメリカとの海軍力の差はいまだ致命的なほど大きい。だから、中国は「非対称戦」を試みているのであって、海南島付近の深海に潜水艦基地を設け、核の地下格納施設を建設する一方で、サイバー攻撃を行い宇宙の開発に力を入れる。現在の南シナ海における中国の行動は台湾・ベトナム・フィリピンといった国々に威圧感を与えることが目的と言った良い。例えば、ウッディー島、ファイアリークロス礁、スカボロー礁を結ぶ「戦略的トライアングル」が完成したところで、現代の軍事技術では動かない基地はただの良い標的にしかならない。もし戦闘が起こったとしても、中国軍はこれらの基地防御のために大規模な戦力を割かないであろう。ただし、これらの基地は隣接する国々にとっては大きな脅威となり、空母「遼寧」はそれらの技術を持たない各国には大きな威圧となる。東南アジア諸国の軍隊は汚職にまみれていたこともあり、かなり軟弱だ。特にフィリピン軍はガラクタ同然とも言われていて全く対抗できそうもない。現状を考慮すると、ドゥテルテ大統領が中国に歩み寄って経済的利益を得る一方、領有権に関しては争いを避け棚上げする姿勢を保とうとするのは合理的とも言えようか。

 

ASEANと中国は2002年に「行動宣言」を締結した。そして今、法的拘束力のある「行動規範」の議論を加速させている。ただし、それは共同開発の場合と同様で、係争中の他国の主張するEEZ内でという条件付きの合意にしか興味がないだろう。あくまで予測でしかないが、中国は自国のEEZで「行動規範」を守る義務はないと考えている。そしてそうした条件下では他国の同意を得ることは大変難しい。どのようなラインで合意に達するのか非常に興味があるトピックだ。

 

大局的に見れば、南シナ海問題は米中の覇権争いが一番表面化する場である。中国にはまだその戦力を核心的利益以外に投射する能力がなく(それ故に国連やその他の国際機関において中国はロシアや災いをもたらす北朝鮮に比べて"よい子"だと思われている)、特殊事例としての台湾を除くと、南シナ海が顕在する対立の場となる。中国は南シナ海におけるアメリカの関与を拒絶し、目標に向かって突き進む。どの程度アメリカは中国の戦力強化と南シナ海における支配確立を許容するのか、米中は南シナ海において利害共有という概念を持つことができるのかが焦点となる。

 

南シナ海問題の当事者は少なく見積もって、1) 中国 2) 台湾 3) フィリピン 4) ベトナム 5) ブルネイ 6) マレーシア 7) ベトナム 8) インドネシア。二国間の領土問題さえ解決することが難しいのに、多国間の領土問題が解決することがあるだろうか。エネルギー資源、ナショナリズム制海権…様々な要素が入り込んでいる。こういった問題に関しては、地道に協議を重ねて(「行動規範」のような)合意に至る(「行動宣言」のように)しかないのですが、全く前途が見えない。どのように解決するのだろうか、難しいが知恵を絞り、人間の知能が平和的解決をもたらすことを望みたい。

 

以上の記述における参考文献として2冊挙げときます。

・ビル・ヘイトン『南シナ海ーーアジアの覇権をめぐる闘争史』安原和見訳(河出書房新社、2015年)。

・アンドリュー・J・ネイサン、アンドリュー・スコベル『中国安全保障全史』河野純治訳(みすず書房、2016年)。