日本 安倍晋三論

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出典:安倍晋三 公式サイト http://www.s-abe.or.jp/

 

アベノミクスは道半ば!」「アベノミクス、前進か後退か」

第24回参議院選挙の結果、自民党参議院単独過半数(平野元復興相の入党を含める)を獲得、また改憲4党で3分の2を達成した。

「 安倍1強 」自民党の総裁任期延長は早々に決着し、向かうところ敵なし状態(2016年12月30日現在、内閣支持率64% 日本経済新聞)。2021年までの長期政権が予想される今、安倍晋三という人物について改めて考え直す良い時期である。幸いにも近頃、複数の関連本が出版された。以下の文献を主な参考資料とし、安倍晋三について論じてみたい。

山口敬之『総理』(幻冬舎、2016年)

阿比留瑠比『総理の誕生』(文藝春秋、2016年)

御厨貴、芹川洋一『政治が危ない』(日本経済新聞出版社、2016年)

 

①安倍と信条

安倍首相は"国家主義的"な考え方の持ち主とされている。村山談話に反対、憲法9条改正論者、教科書問題、拉致被害者の一時帰国拒否、女性宮家創設反対。首相就任以後の河野談話見直し、靖国神社参拝、安保法制の整備等が理由として述べられる。初当選した93年当時は55年体制の崩壊、細川→村山内閣と続き、自民党の総裁は河野洋平とリベラル派が政権の中枢を握っていた。当時の安倍さんの立ち位置は「異端の「理念的保守」」と認識されていたようだ。

第二・三次安倍政権では初めの1年を除いて、その政治的信条は押し隠されているように見える。靖国神社参拝の見送り、村山談話を最低限引き継いだ安倍談話、12月28日の慰安婦合意があった。現在のところ、安倍首相の"現実主義的価値観"が思想・信条を押しとどめているという解釈が一般的に見える。

 

②安倍と人脈

「好き嫌いが激しい」安倍首相とはそういう人物であるらしい。一部の親しい仲間とは親密に接するが、信用のおけない政治家とは距離を置く。例えば、小池百合子東京都知事石破茂元地方創生相。両者共に安倍政権で要職を担当していたのだが、共通するのは"風見鶏"といったところか。以下、安倍さんの側近を整理してみよう。

菅義偉官房長官・・・万景峰号入港に関わる港湾法改正の法整備等が接点だということで実は関係は新しい。元々は宏池会系に所属していたが、第一次安倍内閣成立に貢献、当選4回で総務大臣に抜擢。時たまテレビに出演される(プライムニュース等)が、発言は極めて無難、安倍首相の政策に反対することは少ない。首相に忠誠を誓い、あくまでもナンバー2に徹する、政治的野心が無いように見える。

麻生太郎副総理兼財務大臣・・・尊敬と思いやり。消費税引き上げ問題で麻生さんが最終的に譲歩したのは、総理という立場への敬意故であると言われている。意見の相違があれどそれを乗り越えていく「国家感」。両者ともに政治家の家系に生まれ、苦難を共有しているということもあるだろう。恩義を大切にする麻生さんの価値観も信頼の基となっている。

岸田文雄外務大臣・・・安倍首相と同期。新人議員の頃、麻生さんが安倍、岸田、塩崎を誘い飲みに出かけたという有名な逸話がある。「若いときに一緒に悪さをしたとか。これが安倍・岸田の二人にはあるんです。」飲めない安倍さんの代わり、酒豪の岸田さんが飲んで、ひっくり返ったとか。幹事長への異動も報じられた岸田さんだが外務大臣に留任した。禅譲を期待しているとも言われているが、宏池会トップの岸田さんと安倍首相の路線の違いは大きい。

稲田朋美防衛大臣・・・産経新聞へのコラムに注目した安倍さんが2005年郵政解散の際、刺客として弁護士の稲田さんを擁立。政調会長を務めた後、安倍首相の意図もあり防衛大臣に就任した。初当選後は専ら経済を勉強していたという印象だ。消費税増税延期に対しては実は反対している。思想・信条は他の側近と比べても安倍首相に近く、後継者とも目されているがどうだろう。つい先日、靖国神社に参拝した。

NAIS・・・1999年に結成された政策研究グループ: N(根元匠)A(安倍晋三)I(石原伸晃)S(塩崎恭久

NASA・・・2008年に結成した麻生元首相を中心とした議員グループ: N(中川昭一)A(麻生太郎)S(菅義偉)A(甘利明)、後に安倍現首相も加わる。

他、萩生田光一官房長官世耕弘成経済産業相加藤勝信働き方改革担当大臣下村博文幹事長代行衛藤晟一首相補佐官などが著名。参議院選で敗れ退陣し、政権交代を経た後も安倍さんの周りに残った政治家が中心にいる。同期の連帯も強いようだ。

 

安倍首相と派閥の繋がりは個人の関係と比べると深くない。安倍首相は2012年の総裁選挙で派閥の長である町村信孝と派閥分裂選挙に至っている。当時安倍さんを支持したのは麻生派高村派だった。派閥との繋がりが薄い代わりに、党の重鎮の支持を得ている。安倍さんの一応の支持基盤である細田派の細田博之政調会長、安倍派四天王の1人: 森喜朗元首相は安倍首相を官房副長官に抜擢した過去がある。高村正彦副総裁は同じ山口県出身で、2回の総裁選で安倍さんを支持している。二階俊博幹事長はいち早く総裁任期延長を主張し、手っ取り早くまとめあげた。額賀さんは相手にする必要もないようだ。

 

安倍さんの側近が新たな政局を作り出すことは想像しづらい。宏池会再結集の動きは気になるところではあるが、閣僚に爆弾級のスキャンダルが起こらない限りは盤石だろう。

 

③安倍と政策

「スピード感」を頼りの「争点解決型」政治。

経済政策: 「アベノミクス」が絶えず選挙の焦点。政権を通して一貫しているのはアベノミクスの推進だ。物価上昇率2%へのこだわりが強い。ヘリコプターマネーとまでは言わないが、需要を増やし経済全体のパイを拡大→景気改善と税収の増加というサイクルを目指している。就任時から1年、日経平均株価は上がり、円安は進んだことでアベノミクスは成果を上げたが、以降停滞を続けているようにも見える。既得権益層の反発も考慮しなければならないが、成長戦略は具体性を欠けている。2015年総裁再任後、アベノミクスは第二ステージ: 新三本の矢に移行した。希望を生み出す強い経済(GDP600兆円)、夢をつむぐ子育て支援出生率1.8)、安心につながる社会保障(介護離職ゼロ)。一億総活躍、働き方改革に力を注いでいる。

外交政策: 日米関係重視。中韓との関係悪化を一定程度容認、「地球儀を俯瞰する外交」をモットーに主体的な外交の実現・努力を図っている。クリミア侵攻に対する制裁措置や昨今の日露関係を見る限り、地政学的に遠く離れたEUと協調するよりも、理念が多少異なろうとも利害を共有するロシアとの関係を重視しているようだ。一方でG7などの場を活用→西側陣営の一員であることをアピールし、中国への警戒は緩めない。韓国との関係悪化は安倍首相の思想・信条と韓国側: 特に朴槿恵大統領の原理原則主義に要因があった、つまりは"現実主義"が対立を乗り越え融和に向かう可能性がある。しかし、日中関係はリアリズムの視点から関係悪化を招いているので、安倍政権下での関係改善は期待できないだろう。トランプ次期大統領とは、TPP在日米軍という難題を抱えているが、価値観を十分に共有できそうだ。共和党政権の方が馬が合いそうである。

その他: 社会保障政策や教育も安倍首相が力を入れている分野だ。年金改革は、それが最終的に期待が持てるかはともかく、少しずつ進んでいる。社会保障全般では自然増を年5000億円に抑えつつも、必要なところに必要なお金が行き届くよう努力している。教育では「教育再生」をテーマに、右傾化していると批判もされるが、幅広い制度改革を行っている。グローバル教育の推進をしている。

 

結論: ①・②・③より

現在進行形の安倍政権を評価することは難しい。指標としては一定程度の改善は見られ、何より長期に安定した政治が行われていることは評価材料だ。しかし、「スピード感」「やってる感」に溢れている政治がどれ程身を伴っているのかは判断しづらい。「争点解決型」の政治は長期的ビジョンに欠けているとも言われる。安倍首相のリアリズムは政権維持に対しても強い。世論の支持を食い止めるために「スピード感」のある「争点解決型」政治を行っているのだろう。逆説的であるが、国家構想に欠けているように見える。思想、理念と現実を織り交ぜた政策が必要だ。来年の総裁選まで選挙がなく(解散しなければ)、腰を落ち着けて政治ができるはずだ。日本社会の構造は短期的に変化するものではなく、理論的には争点は既出しているはず。争点を新たに設け政治を動かすのではなく、現在までに取り組んできた課題において成果を上げることに全力を費やしていただくことを期待したいと思う。

2017年の日本政治が注目される。