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韓国 "分裂"の考察

朴槿恵大統領が罷免された。

崔順実への怒り・光化門における「ろうそく」デモは想像を絶する推進力を生んだ。一方で、朴槿恵大統領を支持・「太極旗」デモも日を追うごとに勢いが増した。

李貞美所長代行の冒頭供述「国論分裂と混乱が終息することを望む」は弾劾政局が韓国一国にもたらした対立とそのダメージの大きさを物語っている。

しかし、なぜ対立・分裂がここまで激化したのだろうか。

ここでは、考察の手掛かりとして専門家の方々が先行研究及びメディアで表明されてきた4つの「対立」; ①地域対立イデオロギー対立③世代間対立④「制度圏」と「運動圏」の対立、を取り上げる。

 

①地域対立(慶尚道、嶺南ー全羅道、湖南)→△

著名な先行研究として、

・森康郎『韓国政治・社会における地域主義』(社会評論社、2011年)

・梅田皓士『現代韓国政治分析ーー「地域主義・政党システム」を探る』(志學社、2014年)

が挙げられる。両者とも過去の大統領選挙、総選挙の投票データを分析し、地域対立の有無を考察している。経済・社会的要因に関しても考察を加える。一般に、1971年の大統領選挙(朴正煕vs金大中)を除くと、地域主義が芽を吹いたのは民主化以降; 特に金泳三と金大中の対立が地域主義的投票行動を生んだとされる。

現在においても、地域主義的傾向は一定程度見られる。昨年の総選挙では形勢不利と見られた国民の党(旧金大中派)が光州・全羅南道でほとんどの議席を確保、黄教安大統領代行は大邱慶尚北道で文在寅元代表以上の支持を得ている(2017年2月3~4日、ハンギョレ・リサーチプラス)。

しかし、なおそれでも地域主義は従来に比べると薄れていると言えるだろう。昨年の総選挙では、金富謙が保守の地盤とされる大邱議席を得た。李貞鉉元セヌリ党代表は全羅南道出身で秋美愛共に民主党代表は大邱出身だ。朴槿恵弾劾政局では大邱を含め、嶺南でも支持基盤が崩壊→下野要求運動が起こった。

いまだに、選挙においては地域主義的投票行動がデータとして表れている。しかし、それらは朴正煕→朴槿恵・金泳三・金大中という人物中心の地域主義であるという認識が成り立ち、徐々に色が薄まっていくことが予想される。先の意味において、地域主義的対立は深刻ではないと解釈することが出来る

イデオロギー対立(保守ー進歩)→○

一見すると、韓国の保守ー進歩対立はとてつもなく大きく見える。しかし、見方を変えれば、そうではないと言うことも可能だ。

まず、そもそもの韓国の保守ー進歩をどうとらえるべきかと言う問題がある。

木宮先生は「保守派と進歩派の分裂は、日本の1955年体制の保守と革新ほどの違いはないが、韓国では大きな違いと認識されているのが現状」であると説明する。

パストリッチ慶熙大学副教授は「米国の場合、進歩と保守の基本的な思考方式はあまりにも違うので対話はまず不可能」であると述べ、全員一致の罷免という決定に韓国の特殊性を感じたようだ。

言い換えると、両者ともイデオロギー対立は一般的理解と比べて大きくないという立場だ。

次に、将来における対立の解消可能性という問題がある。

知り合いの大学院生によると、韓国において自由主義的言論空間が発達しなかったことが問題であると言う; 大韓民国建国の際の左派排除→半権威主義体制下で極右の言論に統一され、それに対抗した80年代のNL・PDは極左である。概して自然であるが、民主化以前に中道路線は存在せず、右左というイデオロギーだけが顕著に表れる状態が民主化以降も残存した。

こうした文脈において、安哲秀旋風と第三極の出現は韓国政局の新たな変化である。現在、"anything but 朴槿恵"が文在寅候補の背中を押し、第三極はその勢いに陰りを見せているが、長期的に見て、中道の躍進の可能性は十分に残されている。

つまり、イデオロギー対立は国民認識レベルの問題として大きな壁として存在するが、政治実際レベルでは解消不可ではないと解釈することが出来る

③世代間対立(若者、20~30代ー高齢者、50代以上)→◎

 世代間対立が最も根の深い対立問題であると言えるのではないか。世代間対立は主として盧武鉉大統領登場と共に現れた。理由は2つ; 1) 三金に対する新世代の象徴として国民が彼の進歩的思考に期待した、2) 相対する李会昌が旧世代の保守を代表する人物だったからである。

その後、20年が経過するが、保守ー高齢層、進歩ー若年層という傾向は韓国経済の相対的停滞と若年層の不遇という媒介変数を加え、むしろ増大しているように見える。「ろうそく」デモと「太極旗」デモは若者 vs 高齢者という構図を象徴していた。

筆者の知る限り、世代間対立に関する先行研究はあまり存在しない; 同分野における研究が急がれると思う。若者 vs 高齢者という構図の原拠、固定化について究明される必要があるだろう。

ともあれ、現在見受けられる世代間対立は解消の見通しが立たない。ほぼ全ての若者が朴槿恵大統領の罷免に歓喜したという事実は軽視できない。

④「制度圏」(政府、議会、政党政治)と「運動圏」(知識人、学生)の対立→○

小此木先生の卓越した分析軸である。だが、少々古い印象を受けないでもない。

小此木先生は今回の弾劾の過程で、国民の支持が「運動圏」に一気に傾いたことを韓国政治の変化としてあげる。「軍事独裁政権のもとで形作られた「制度圏」と「運動圏」の分断と対立が今回、かつてないほど極端に噴出した」と述べられているおり、それらはイデオロギー対立と大いに重なる部分もあるのではないかと感じる。国民の支持が一時的に、進歩=「運動圏」に傾いたと理解できる。

政治的イデオロギー対立の見方と異なる点は、「制度圏」に対する「運動圏」の優位性はより長期的に持続する可能性が高いということだろう。そして「運動圏」は歴史的に見ても、弾劾政局から判断しても圧倒的進歩勢力である。つまり、国民の支持が「運動圏」に傾き続けるならば、進歩派の優位が当分続くと言うことになるだろう。しかし、中長期的にはどうだろう;「運動圏」の成功条件は焦点の統一&短期決戦であり、それらのためには何かしらの国民を揺り動かす出来事が絶えず必要ということにもなり得る。

 

以上、4つの「対立」について論評を加えてみたが、果たしてこれらの分析軸(単独またはミックス)で韓国の国論分裂は説明できるのだろうか。それとも、4つの「対立」以外の新たな対立軸の発見が必要なのだろうか、上記のコメントを参照にして考えていただけたら幸いである。

 

日本・韓国 慰安婦問題: 後編

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②12・28合意とその後

急転直下の12・28合意と書いたが、基本的枠組みは「佐々江案」であると言われている; つまりは、野田ー李明博政権期に基礎を置いているということだ。次に、実質的な交渉が谷内正太郎ー李丙琪ラインで為された。朝日新聞の箱田編集委員は「ワーディング」に時間を費やしたという表現をされていた。長期にかけて辛抱強く交渉を続けた結果でもある。

次に合意の特徴・評価をまとめる。

  • 合意の特徴

1. 慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。

日本政府が「軍の関与」を認めている、「責任」を痛感しているとし、法的責任・道義的責任とも言っていない。

2. 安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する。

内閣総理大臣という資格で、公式に謝罪をした。

3. 今般、日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。

日本政府の予算による一括支出であることを明確にした。

4. 今回の発表により、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。日本政府は、韓国政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える。

最終的かつ不可逆的であるという両政府の確認。

5. 韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても,可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する

慰安婦像の移転は努力義務である。

  • 合意に対する評価

+: 両首脳間で合意が得られたこと; ハルモ二が生きている間に補償を行うことが可能になった。

+: 合意は佐々江案よりも進展している。

+: 日韓のメディアは合意を歓迎、日本のほぼ全ての政党が合意に肯定的。

-: 根回しの不足; 被害者・関連団体の反発。

-: 日本政府による「戦争犯罪」が認定されていない、「法的責任」が明記されていない。

-: 慰安婦像/少女像の移転に言及; 努力義務に対する日韓双方からの批判。

 

合意における最終的かつ不可逆的であるという文言には日韓双方の思惑が込められている。最終的というのは日本の希望であり、不可逆的というのは韓国の要請でもある。日本としては、慰安婦問題を度々蒸し返されることに対する不満があり、合意をもって終わりであるという意思があった。一方、韓国としては度重なる日本側の「妄言」に不満があり、繰り返させないという意図があった。

 

現在のところ、合意自体は着実に実行されている。しかし、中身が伴っていない。

12・28合意後、日韓で何が起こったのか、整理してみよう。

2015年12月28日: 日韓合意

2016年1月14日: 桜田義孝; 慰安婦は「職業としての売春婦だった」

2月25日: 稲田朋美; 慰安婦像は「撤去していただくことが前提」: 10億円の拠出条件

4月13日: 韓国総選挙→セヌリ等の惨敗

5月31日: 慰安婦財団準備委員会が発足→法的責任と10億円の関連性について、金兌玄理事長の発言にブレ

6月9日: 挺対協など「正義・記憶財団」を設立

7月10日: 参議院選挙→自民党勝利

7月20日: 「言論NPO」と「東アジア研究院」による世論調査慰安婦合意について、日本側「評価する」47.9%「評価しない」20.9%、韓国側は「評価する」28.1%「評価しない」37.6%

7月28日: 韓国政府「和解・癒し財団」を設立; 乱入劇→金兌玄理事長にカプサイシンスプレー

8月24日: 日本政府10億円拠出を閣議決定

8月30日: 元慰安婦13名が韓国政府を相手に1人当たり1億ウォンの賠償を求めてソウル中央地裁へ提訴

9月7日: 日韓首脳会談: 合意を引き続き誠実に実施していくことで一致

10月3日: 安倍首相、お詫びの手紙について「毛頭考えていない」と否定

10月11日: 「和解・癒し財団」、慰安婦被害者への支援金申請受付を開始(生存者: 1億ウォン、故人: 2000万ウォン)

12月9日: 朴槿恵大統領の弾劾訴追案が可決

12月23日: 合意当時の存命の方々46人の内34名が支援金受け入れ。

12月30日: 釜山の日本総領事館前に新たな慰安婦像の設置

2017年1月9日: 長嶺駐韓大使が一時帰国

 

パットナムのTwo-level game theoryを参照すると、外交交渉における合意は"Win-sets "(お互いが国際・国内レベルにおいて受け入れ可能な内容)の範囲内で行われるという。2015年末の慰安婦合意はまさしくギリギリの"kinky win-sets"の上で成り立った合意であると言えよう。しかし、日韓両国は合意以後、その精神から徐々に遠ざかってしまった。

 

自民党内からの軽率な発言(それは必ずしも誤ったものではないが)1月14日→桜田義孝、2月25日→稲田朋美、10月3日→安倍首相は韓国の世論悪化を招いた。7月28日の記者会見場乱入劇とカプサイシンスプレーの噴射は日本人に異質感を醸成し、悪い報道効果を生み出した。陳昌洙の言う"雰囲気づくり"に失敗した韓国では合意が着実に実行されているものの、日本政府が重視していた慰安婦像移転の努力義務を果たすところまでは叶わず、合意の履行の途中に朴槿恵大統領の弾劾が可決した。合意そのものがギリギリであり、元々危ぶまれていた履行が、朴槿恵セヌリ党の退場とともに更に難しくなったと日本人は感じている; 追い打ちをかけるような釜山ー日本総領事館前の新たな慰安婦像の設置とその認可及び放置は合意の破棄に近い意味合いを持った、という日本の世論が安倍政権の長嶺駐韓大使が一時帰国→長期化という結果を招いたのだろう。

 

ここまで慰安婦問題に関して過去の経緯と厳しい現状を振り返ってみた。

それでは、今後どのような措置が望ましいのだろうか。

まず日本側から、

1. 長嶺駐韓大使を帰任させる。大使の不在は幅広い交渉ツールの放棄に等しい。慰安婦問題に関して、厳しい韓国世論は放置していても何も変化しない; むしろ悪化させるだけであり、それらが若者を支えられていることを考慮すると、後回しという手段は将来の日韓関係に悪影響をもたらすだけである。

2. 適切な地位にある者の、ハルモ二に対する謝罪文の読み上げもしくは手紙伝達。細かい事実関係はともかく、加害者の立場として誠意のある謝罪の態度を見せる必要がある。ただし、それを釜山の慰安婦像設置とリンクさせない注意も必要だ。

次に韓国側へ

1. 釜山の慰安婦像を撤去慰安婦合意においてはハルモ二の名誉と尊厳の回復が最も大切である。しかし、大きなフレームワークで考えたとき、「外国公館前に造形物などを設置するのは国際的な プロトコル(外交儀礼)に鑑み適切ではない」と発言した尹炳世外相の認識は正しい。日本国民が慰安婦問題を超越した"挑発"と捉えていることを踏まえれば、公館付近の慰安婦像設置は国内変数を加えたとしても正しくない。

2. 研究報告書の周知。すでに白書としての公表は見送られ、民間の研究報告として取り扱われることが決まっているが、専門家の良識のある意見もしっかり取り入れるべきである; 慰安婦の研究等々彼らが一番情報を持っている。

双方に

1. 元慰安婦の方々との直接対話。慰安婦関連のセッションに参加した際に感じたのは運動団体の影響力である; 慰安婦をサポートする日本の市民団体の主張は強く、残念ながら妥協の余地がないと感じさせた。挺対協含め、彼らの活動は25年に渡り、要求を下げることが不可能に近い事は理解できる。だが、元慰安婦の方々が高齢であり、補償金を受け取る意思を示した人数を考えてみると、相違があったとしてもおかしくない。

2. 政府関連団体によるフォローアップ

アジア女性基金の際、償い金を受け取ったハルモ二は名誉回復どころか、逆に立場を悪くした。今回は「和解・癒し財団」からの治癒金ということで、受け取りやすくなっているとは思うが、慰安婦合意によって拠出されたお金を受け取ることで、白い目で見られるといった事態があってはならない。プライバシーを考慮しつつ、彼らの最後を政府が見守り・管理することは、被害者の方々が高齢であること・問題の大きさを考慮すると、大切であると思う。

3. 象徴的な事業: 歴史を繰り返さないという教訓

ドイツと日本を単純比較することは避けたいが、ワルシャワでひざまづいたブラントとヴァイツゼッカーの演説は和解の"象徴"だ。日本政府と韓国政府には声明以外の部分での"最終的かつ不可逆的解決"が求められているのではないか。日本国民・政府は反発するだろう、そして現在ある「和解・癒し」財団は個人への治癒金がメインである。しかし、それらを一歩超えて将来へとこの問題を引き継がせない意思が必要だ。12・28合意は始まりでも終わりでもない、問題を解決させる途上の合意である。

 

日本・韓国 慰安婦問題: 前編

今日は三一節。韓国では新年度がスタートします。

そして、今日の水曜集会は大規模デモになるようで、一部では1000人が集まると報道されていた。慰安婦問題が相変わらず日韓関係をくすぶっている; 長嶺駐韓大使が一時帰国してから1ヶ月半、帰任する雰囲気にない。

今後、朴槿恵大統領の罷免可否が争点になり、慰安婦像の移転問題が進展するとは考えにくいため、一時帰国が更に長引く可能性も高まってきた。

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今回は慰安婦問題について所感を述べたい。以下、①慰安婦問題をめぐるこれまでの経過(前編)②12・28合意とその後(後編)、に分けて考える。はじめに、慰安婦問題を深く議論するに当たって、過去の経緯を理解することが一層求められていると思う; なぜなら90年代慰安婦問題が過熱した時のことを知らない世代が増えており、議論が感情的になりがちでもあるからだ。次に、12・28合意後の動きにも目を通す; 当然のことながら現在の大使一時帰国長期化という異常事態に直結しているからである。

 

慰安婦問題をめぐるこれまでの経過

先行研究として、千田夏光、金一勉の著作他があるが、慰安婦それ自体が日韓の懸念問題として姿を現したのは、1990年1月、尹貞玉教授がハンギョレ新聞に「挺身隊の足跡」の連載を始めてからだ。11月には韓国挺身隊問題対策協議会が設立された。大きく事態が動いたのは1991年8月14日、金学順が記者会見を行い、実名を名乗り、いわゆるカミングアウトを行った。12月6日、元慰安婦3名によって東京地裁への提訴がなされ、同日会見で質問を受けた加藤紘一官房長官は「政府関係機関が関与したという資料はなかなか見つかっておらず」という答弁をした。それに対して韓国政府は真相究明を要求し、12日、日本政府が関係省庁に慰安婦問題の資料調査を命じることになる。翌年1月には宮澤喜一首相の訪韓を控えており、早急な対処が必要とされていた。

一般に、首脳会談では何かしらの成果を挙げる必要がある。しかし、慰安婦問題に対しては準備期間が1ヶ月しかなく、事務レベルにおける折衝が不足していたことが想像される。また、朝日新聞が1月11日「朝鮮人従軍慰安婦への軍関係資料発見」という表題で、吉見義明教授が日本軍の関与を示すとされる資料を提示したことが、「関与した資料がない」とした日本政府の見解を覆した。後に、秦郁彦は首脳会談の5日前に起こった同報道を、「朝日新聞の奇襲」と呼んでいる。公式見解の修正を余儀なくされた日本政府の対応は1月13日、加藤官房長官の談話へと繋がった。ちなみに水曜デモの第1回が1月8日に行われている。

1992年1月16日~17日の宮澤訪韓は「謝罪外交」であったと言えよう。首脳会談の争点は韓国の対日貿易赤字であったが、日本政府に譲歩の意思がなかったため、盧泰愚としては、慰安婦問題を追及しなければならなかったという側面もあった。盧泰愚政権がレームダック化しており、三金時代の真っ最中、特に民主自由党内における勢力争いも影響したとされている。一方、日本政府はここまで大事になると予想していなかった。それは石原信雄副官房長官が「ざっくりと」謝ってしまえば済むと認識していたことからも伺える。しかし、この平謝りが韓国側の反発を生む一因ともなった; なぜなら、繰り返しのお詫びの表明と同時に補償の意思を示さなかったからだ。挺隊協は誠意のある謝罪&法的賠償→名誉回復を求めており、宮澤内閣の対応は彼らの水準を全く満たしていなかった。日本政府は「1965年条約で解決済み」であると言い、韓国政府は「請求権協定には該当しない、慰安婦は例外」と述べる、同構造は92年1月に形作られた。

ただし、韓国政府が常時、日本政府に法的責任を認めた上での賠償を求めていた訳ではない。例えば、金泳三大統領は、強制連行したという事実認定のみでOKだという姿勢を示していた。そして河野談話では狭義/広義という議論はあるにせよ、軍の関与を認めることなった。実際、韓国政府は同談話を「日本政府の努力を評価し、受け入れる」「わが政府の立場に相当な水準まで反映したもの」であると評価しているし、「今後、慰安婦問題を両国間の外交懸案として提起しない」とまで述べている。しかし、韓国の関係団体は談話に批判的であり、外交問題としては解決したように見えた慰安婦問題は、直後に成立した細川内閣以後もくすぶり続けることになる。また、同タイミングで成立した内閣が55年体制終結を告げる非自民内閣であり、運動体に期待を抱かせた→要求水準を高めたことも深刻なズレが生じる要因となった。

村山富市政権は、歴代日本においても最も歴史認識問題の解決に前向きに取り組んだ内閣であったと言える。戦後50年という節目に行った村山談話で有名であるが、「お詫びと反省の気持ち」を具体化→アジア女性基金の発足にも貢献した。また、同時期の傾向として抑えなければならないポイントが2点ある。第一に、保守の反発; 戦後50周年の国会決議に反対した。第二に、慰安婦問題の国際化; 1996年1月のクワラスワミ報告、1998年6月のマクドゥーガル報告は日本の対応を非難した。

村山内閣: 自社さ連立政権では、いわゆる「妄言」も相次いだ。多くは自民党から為されており、橋本龍太郎渡辺美智雄侵略戦争韓国併合に関わる発言で村山内閣の足を引っ張った。究極的には、村山自身が「日韓併合条約は法的に有効に締結された」と発言し、韓国政府: 金泳三大統領を怒らさせた。金泳三は94年10月時点において、補償を求めないという姿勢を堅持していた; アジア女性基金の事業に対しては困惑していたと言われているが、それでも善意で行う分には問題がないという立場だった。しかし、相次ぐ妄言は、金泳三政権の態度を硬化させ、アジア女性基金を認めないという認識に至るようになった。アジア女性基金が"失敗"した大きな理由の1つである。

アジア女性基金は被害者個人に償い金200万、医療福祉支援として300万、合計500万円が支給される事業であった。国々によってそれらの支給方法は異なるが、韓国の被害者の方々には、最終的に500万円が個人に支払われている。しかし、実施は60(+1)人にとどまり、登録被害者の1/3程度だったと報告されている(総数は1993年: 162人→現在239人)。

なぜアジア女性基金が失敗に終わったのか。熊谷奈緒子(2014)は以下4つの理由を挙げる。

①広報の仕方、②話題先行と調査不足、③募金の仕方、④活動の仕方。

当事者として関わった和田春樹(2016)は以下のように述べる。

「国民募金で「償い金」を支払うという基本コンセプトに問題があった、これが「政府の責任回避をあらわすとして」、被害者と運動団体に受け入れられなかった」。

象徴的な出来事は 1) ハッキリ会の臼杵敬子さんに韓国入国禁止措置が取られたこと; 本来は慰安婦に寄り添う立場の方だ、2) 金大中政権において、対抗措置さながら被害者補償が行われ、しかもアジア女性基金を受け取らないと誓約したハルモ二が対象とされたこと; アジア女性基金の意義を消失させる試みであった。

基本的な構図は金泳三・金大中政権期以降、変わらない1998年、小渕ー金大中間で交わされた「日韓共同宣言―21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ」では慰安婦問題が巧みに回避された印象を受ける。2005年、盧武鉉政権は、「慰安婦、サハリンの同胞問題、原爆被害者の問題は請求権協定の対象ではなかったため、日本政府に法的責任がある」と韓国政府の立場を改めて明確にしたが、大筋として金泳三ー村山政権期以降、道徳的責任において慰安婦問題を解決することはできないという韓国側の主張に変化はないと言えるだろう。

2011年8月、韓国の憲法裁判所は、「韓国政府が日本政府に対して日韓請求権協定に基づいた解決を図る具体的な努力を怠っていること」に対して憲法違反であるという判決を下した。時の李明博政権は野田首相に対して、慰安婦問題に関し強く出ることが求められ、12月の日韓首脳会談では野田ー李明博、両者が正面衝突した。李明博大統領は野田首相に"決断"を促したが、野田首相は反論とばかりに慰安婦像の撤去を求め、交渉は決裂した。翌年、李明博大統領は竹島/独島に上陸し、天皇に関する発言もあって、日韓関係は悪化した。

2012年末、第二次安倍内閣が発足した; しかし、河野談話の見直しを含め歴史修正主義的見解を当初維持したため、日韓関係は低空飛行。2013年、朴槿恵大統領が慰安婦問題の進展を首脳会談の前提に置いたこともあり、過去最低とも言われる日韓関係に陥った。象徴的だったのは天安門城楼の上に並ぶ、朴槿恵習近平プーチンの写真。2015年は日韓国交回復50周年という記念の年であったのだが、関係修復の様相もなく、関係者の方々は大変な1年を過ごしたに違いない。それ故、急転直下の12・28合意は驚きであった。

 

台湾 政治人物調査

今日という日は1947年2月28日から70年。台湾では非常に大切な記念日でしょう; 二・二八事件から70年が経過した。蔡英文政権にとっては初めての大きな記念日となります。

 

今回は、台湾に関連する物事として、TVBS: 国内主要政治人物声望調査(2/9~2/14)を総覧する。

  陳菊 頼清徳 鄭文燦 柯文哲 林佳龍 宋楚瑜 朱立倫 陳建仁
満意 62 58 50

50

46 42 38 36
不満意 17 17 13 28 20 26 27 26
                 
  蘇嘉全 馬英九 蔡英文 林全 洪秀柱 黄國昌 李登輝  
満意 35 33 29 27 27 24 23  
不満意 31 36 47 45 45 48 38  

出典:TVBS 民意調査中心 http://other.tvbs.com.tw/export/sites/tvbs/file/other/poll-center/0602091.pdf

 

例えば、以下の傾向が見受けられる。

1. 民進党系の市長がトップ5を独占

No.1 陳菊(高雄市長)、No.2 頼清徳(台南市長)、No.3 鄭文燦(桃園市長)、No.4 柯文哲(台北市長)、No.5 林佳龍(台中市長)

2. 政権中枢の支持率は今一つ

No.8 陳建仁(副総統)、No.9 蘇嘉全(立法院長)、No.11 蔡英文(総統)、No.12 林全(行政院長)

3. その他の低迷

No.5 宋楚瑜(親民党主席)、N0.6 朱立倫新竹市長)、No.13 洪秀柱(国民党主席)、No.14 黄國昌(時代力量主席)、No.15 李登輝(元総統)

 

まずは、2018年で市長を退任するトップ2の処遇が焦点となるだろうか。

陳菊おばちゃんは高支持率を長期間維持しているが、やはり年齢という制約もあって、蔡英文政権の"駒"となるのが現実的なのかもしれない。

頼清徳は立派な次期総統候補となり得るが、蔡英文が2期務めるとなるとまだ先は長い。

他は高支持率+国民党の低迷を考えると、2022年まで市長に居座ることが可能と予想されるので当面は問題がない。

国民党は朱立倫が頑張らないと、展望が開けない。次期主席になると思われる3候補よりも10歳程度若く、国民党の未来は彼にかかっていると言っても過言ではないような気がする。

そして、時代の趨勢からして意外なのは、黄國昌の低支持率; 緑の間の路線論争(民進党と時代力量)が影響したと説明されている。民進党で限ってみれば彼の支持率は36%、不支持が46%。時代力量は75%。統計を見る限りでは、全体の48%を占める中立及び無党派層の支持率の方が共に15%と低く、彼の低支持率に直結しているように見える。

しかし、第三勢力の支持率が皆低いかと言うと、宋楚瑜という例外もいる。台湾省時代の好印象が大きい。蔡英文も敬意を払う; APECにも派遣された。

 

蔡英文政権について、政権の中枢にいる政治家の支持率は軒並み低迷しているが、年末の統一地方選挙まで粘ることが出来れば先が見えてくる。当然ではあるが、カギとなるのは内政; 改革を実行しつつ支持を得ることの難しさを実感しているに違いない。対米・対中関係という対処困難な仕事は半永続的に存在する; 大きく振り回されないことが重要であるが、失策のリスクも高く付いてくるので難しいところであろう。

 

Neoclassical realism

国際政治理論について書こうと考えていたのですが、

はじめに、ネオクラシカル・リアリズムについて整理します。

ネオクラシカル・リアリズムという概念を広めたのはギデオン・ローズです。

今回はギデオン・ローズの論文を通して、ネオクラシカル・リアリズムへの理解を深めます。

 

Gideon Rose. "Neoclassical Realism and Theories of Foreign Policy". World Politics 51 (October 1998), 144-172.

 

論文の目的・・・ネオクラシカル・リアリズムの主要な研究の特徴について議論し、学問への貢献を評価する。

Key term・・・Neoclassical realism, foreign policy, relative power, independent /intervening / dependent variable, syetemic / domestic factor

 

Introduction

ネオ・リアリズムーケネス・ウォルツ

対外政策(Foreign policy)はネオ・リアリズムの射程外→新たな対外政策理論の構築する必要性があった⇒現在までに行われた理論構築の試みは以下の4つに分類することが出来る。

①Innenpolitik theoryー国内政治レベル

②Offensive realismーシステムレベル(ハード)

③Defensice realismーシステム要因(ソフト)

④Neoclassical realismーシステムレベルと国内政治レベルの双方を考慮する・・・1. 独立変数: 国際システム(パワー)が→ 2. 媒介変数: 国内要因を通して解釈される; 政治エリートの認識が対外政策を決める。

 

Four Theories of Foreign Policy

①Innenpolitik theory

独立変数は国内政治ー政治経済的イデオロギー、国家の性質、政党政治、社会経済的構造。

問題点ー類似のシステムを持つ国家が異なる行動をすること; 異なるシステムを持つ国家が似たような行動をすること、を説明できない。

②Offensive realism

独立変数は国際システムの構造ー相対的パワーと外的環境が国家を攻撃的にする。

問題点ー似たようなパワーを持つ国々が異なる行動をすること、を説明できない(Defensive realismと同じ)。

③Defensive realism

独立変数は主に国際システムの構造ー国家はシステム要因に従って合理的な反応をする。非合理的な行動: 軍事行為等は国内政治要因から説明する。

問題点ー似たようなパワーを持つ国々が異なる行動をすること、を説明できない(Offensive realismと同じ)。

→①~③に共通する問題点ー過度の単純化(oversimplified)、不正確性(inaccurate)

⇒Neoclassical realismが登場した。

 

ネオクラシカル・リアリストは以下のように議論を展開する。

・Innenpolitik theoryー国内政治要因が唯一外交政策を規定していることを批判。パワーを軽視している。

・Defensive realismーパワーを軽視している。システムレベルでの議論は実際の国家の行動を説明しておらず、国内要因が後付けとして用いられている。

メインの独立変数はあくまでも相対的パワー(relative power)であるべきである。

しかし、Q. 相対的パワーとは何か。

A. 1) パワーリソース、2) 国家の対外政策における"利益"。

・Offensive realismーシステム要因はそのまま外交政策に直結しない。

媒介変数として国内政治構造/政策決定者の認識を考慮する必要がある

 

Neoclassical realismはシステム要因と国内政治要因の双方に留意する。

→Neoclassical realismは構造理論(ウォルツ)とコンストラクティヴィズム(ヴェント)の中間に位置する。

システム要因ーOffensive / Defensive realism の前提は過ち: ホッブス・カント的価値観は間違い。

国内政治要因ーInnenpolitik theoryは測定困難な国際政治を主観的物差しで測っている。

しかし、 Q. Classical realismとの違いは何か。

A. 1) 前提条件、2) 目的、3) 方法論

Neoclassical realismは対外政策の理論であるー相対的パワーが対外政策に与える影響を明らかにしている。

Neoclassical realismの原型はツキュディデスの「戦史」: 叙述形式が基礎; 代表的論者は以下の通り。

ファリード・ザカリア・・・アメリカ

ウィリアム・ウォルフォース・・・ソ連

トーマス・クリステンセン・・・アメリカと中国

ランドール・シュウェラー・・・第二次世界大戦

 

The Rise and Fall of the Great Powers

Neoclassical realismには3つの波があった。

①ロバート・ギルピン、ポール・ケネディマイケル・マンデンバー

→長期的観点において、大国の興亡と相対的パワーには明らかな相関関係がある。

②アーロン・フリードバーグ、メルビン・レフラー

→相対的パワーが特定の国の対外政策へとシフトする過程を研究;

フリードバーグ・・・国内政治要因を含め、包括的な考慮が必要である。

レフラー・・・相対的パワーの変化が政策決定者の認識に影響する。

③ザカリア、ウォルフォース、クリステンセン、シュウェラー

先行研究が特定のケースに偏り→他への適用可能性を検証しようとした「どのようにして大国が相対的パワーの上昇/下降に対応するのか」。

 

Perception and Misperception in International Politics (媒介変数その1)

相対的パワーが政策に与える影響は二次的であるという事実。

政策決定者の認識、という変数を加える。

フリードバーグやコヘインは合理的な計算に基づいて政策決定者の認識を強調する。

ネオクラシカル・リアリストは認識は往々にして不正確で誤解を招いていると主張; 特に短期・中期におけるパワーに対する認識はラフであり、気まぐれである。認識は長い時間をかけて徐々に変化していく。

ウォルフォースやレフラーの研究

→最終的には、相対的パワーが認識に影響を与える。(しかし、ウォルフォースによれば、対外政策は相対的パワーと別の要素を組み合わせた認識によって変化するという)

ザカリアやクリステンセンの研究

→「ショック」を重要視する; 政策決定者は長期にわたる緩やかなパワーの変化に突然気付く。

シュウェラーの研究

→パワーの分布に対する誤認がWWIIを招いた。

 

Bringing the State back in (媒介変数その2)

ザカリアとクリステンセン

国の統治能力と社会環境を変数に加える

ザカリア・・・1) 政府のパワー(state power): 政府が引き出し目標達成のために利用できる力、2) 国家のパワー(national power): 国それ自体が持つパワー、を区別。

クリステンセン・・・戦後の米中関係を以下のように説明。1) WWII後~1972年ーInnenpolitik: 対外政策の変化は困難を伴った→2) 1972年~ーRealism (balance): バランス・オブ・パワーの変化を認識した結果、対外政策の転換が行われた。

 

他に考慮される変数

フリードバーグ・・・非構造的要素(non-structual factor)

シュウェラー・・・国家の目的・関心の性質(the nature of state's goal or interests)

 

Designing Social Inquiry

ネオクラシカル・リアリストの主張

相対的パワーと対外政策の因果関係を明らかにする必要がある; 従来のリアリズムに欠ける視点。

純粋なる実証主義・解釈主義は対外政策分析の正しいアプローチではない; 簡潔性と詳細な分析の両立が求められる。

研究対象とする地域の専門的知識は国家の対外政策を理解する上で不可欠である: 語学能力と公文書の利用。

しかし、Q. それらは対外政策の "理論" と言えるのか; 簡潔性や視座を与えてくれるのかと言う議論があら。

A. Neoclassical realismは独立・媒介・従属変数の因果関係を明らかにしており、対外政策が変更し得る条件を明確にしている。

 

Gideon RoseはNeoclassical realismを評価する。

Neoclassical realismは理論の簡潔性を失うことなく包括的な対外政策の説明を可能にしたmidrange theoryである

 

Conclusion: the Road ahead

Neoclassical realismの課題

①依然として客観的なパワーと政策決定者の主観的評価の関連性が曖昧である。

②国家形態がパワーの利用に与える影響の更なる分析が必要。

③相対的パワーと対外政策の関連性の説明が求められる。

④重要な論点: 例えば、何が相対的パワーの増減に影響するのか、改めて注意を払うべきである。

⑤Neoclassical realismの前提を維持しつつ、独自性を発展させること; 1) 独立変数はシステムレベルであるーInnenpolitik theoryに傾き "何でも屋" になってはならない、2) Offensive realismやDefensive realismとは異なる理論; 歴史的偶然性と必然性の双方を考慮すること。

⑥結局のところ、紛争が勃発するか否かは国々の決断次第であるという問題。

 

Gideon Roseの結論;

上記で述べた課題があり、Neoclassical realismが理論の説明・予測能力に対して謙虚であったとしても、それは理論の欠陥とはなり得ない; むしろ客観的探求に基づく賢明な評価であり、美徳として捉えるべきである

 

台湾 蔡英文政権

蔡英文が総統選挙で当選してから早1年、5月20日の就任から7ヶ月半が経った。高い期待感を背負って総統に当選→就任した蔡英文であるが、今や支持率は30%以下まで下がっている(もっとも就任時には40%まで下落していた)。

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出典:TVBS民調報告より筆者作成。

今回は、蔡英文政権の内政について俯瞰する。

馬英九が再選を果たした2012年以降、成長率は下げ止まり: だいたい0~3%、若年失業率は高止まり: 絶えず10%以上、を記録した。就任式では、1) 経済構造の転換2) 社会のセーフティーネットの強化3) 社会の公平と正義4) 地域の平和的安定発展と両岸関係5) 外交およびグローバルな課題、を大きなテーマとして表明し、内外で構造転換を行う姿勢を示した。内政に関連する課題は1)~3)に当たるので、それらを中心に考察してみよう。

 

①経済構造の転換

2015~2016年の成長率は0%代に留まり、国際競争力の回復が求められていた。

まず、蔡英文政権が経済発展モデルへの転換として掲げているのが「五大イノベーション計画」バイオテクノロジー・アジアシリコンバレー・スマート機械・自然エネルギー・国防産業)+2(新農業・循環型経済)である。プロジェクト自体は各々批判を受けつつも着々と進んでいるように見える*が、自体が多額の税金の投入を必要とするために、社会的支持を得→効果の実現するまで、に時間がかかるという難点がある。

*沙崙科学城計画(2016年11月6日始動)、台湾国際農業開発股份有限公司の設立(2016年12月5日)、アジアのシリコンバレー執行センターの発足(2016年12月25日)「脱原発」法案の成立(2017年1月11日)等。

次に、参入障壁の低い多国間協定: TPP、RCEPへの参加に言及している。しかし、TPPはアメリカが離脱をし、RCEPはそもそも中国が参加を認めるのかという問題がある。「新南向政策」についても同様; 中国の妨害を受ける。

新たなイノベーションモデルが効果を発揮するまでが正念場となる。自由貿易とそれに伴う市場の拡大は、保護主義の蔓延・中国ファクターが作用するため順調とは言えない。台湾の低成長率が近未来に改善するとは思えず、蔡英文政権が経済で恩恵をあずかることは難しい: 低支持率に直結する経済の低迷であるが、耐え・忍ばなければならない。

 

②社会のセーフティーネットの強化

本人の回顧録によると、蔡英文は「セーフティーネット」という言葉が大好きらしい。

ここで最優先課題となるのは、年金制度改革である。

1) 不公平→軍人・公務員・教員には利子率18 パーセントの優遇貯金制度があり、支出を圧迫している。

2) 破綻の危機→日本以上の高齢化現象が財政を圧迫しており、おおよその年金制度は2020~2030年までに破綻すると予想されている。

国民党が優遇してきた軍人・公務員・教員は数としては少数に過ぎない。しかし、既得権益層は制度改革に猛烈に反対しており、昨年9月3日には15万人がデモ行進をした。

改革を進める上で、受給を遅らせ負担を増やす措置が必要となるが、こちらも一般市民の反発を招くことになるだろう。

そして現状においては、改革に対する不満意度(47%)が満意度(26%)を大幅に上回っており、2017年は年金制度改革で揺れる1年となることが予想される。

週休二日制の妥協案とされた、「一例一休」制度は立法院を通過した。同制度に関しては、得失点両論。東京外国語大学の小笠原先生は、「現場での混乱が続いて」おり、「蔡英文政権手痛い失点となった」とも評している。

③社会の公平と正義

この3つ目の要点に関しては比較的順調であるように見える。

国民党の不当財産については、「不当党産処理条例」を可決し、執行道中とはいえ移行期正義を前進させている。

また、蔡英文国家元首として初めて先住民に公式謝罪をし、「原住民歴史正義和転型正義委員会」を設置した。

移行期正義という問題は、他国の例からも明らかであるように、1つの過ちが分断を生み出す要因になる。慎重が要される項目ではあるが、成熟した台湾社会と蔡英文の政策は今のところ大きな反発を生み出していない。

同性婚の法制化はこの先数ヶ月が鍵となりそうだ。審議・協議中。

 

結論: ①・②・③より

蔡英文政権発足から7ヶ月半が経ち、改革としては、前進した項目もあれば停滞している部分もある。総統選挙勝利当初の期待感が高かったため、その反動として、支持率がある程度下がってしまうのは致し方ない。とはいえ、満意度28%・不満意度47%という現時点での数字は、かなり低いことに間違いなく、これ以上の下降は政権運営に支障をきたしかねない。支持率の低下は林全行政院長の不人気に負う部分も大きく、陳菊の登用という最終兵器もあるので、政権のレームダック化は当分起こらないと予測される; さらに、国民党はそれ以上の危機に直面している。しかし、8年の長期政権を見通す蔡英文政権であり、スタートダッシュの失敗が俎上に載せられた今、2年目のリカバリーは重要性を帯びるだろう; 対中関係含め、今後を占う1年となる。

 

韓国 大統領選挙

韓国の次期大統領選挙についてKBSが興味深いデータを紹介していた。

憲法裁判所が3月13日までに弾劾案の結論を出すと仮定する(→朴槿恵大統領の罷免)と、連休前の4月26日(水)に次期大統領選挙が行われることが濃厚とされている。

 

出典:KBS NEWS http://news.kbs.co.kr/news/view.do?ncd=3424269

・全体の支持率(2月5~6日)

→1位 文在寅 29.8%、2位 安熙正 14.2%、3位 黄教安 11.2%、4位 安哲秀 6.3%、4位 李在明 6.3% 6位 劉承旼 3.2%

・保守派、進歩派、第三勢力別の候補者支持率(2月5~6日)

1) 保守派

1位 劉承旼 20.6%、2位 黄教安 15.1%、3位 南景弼 6.3%、4位 李仁済 2.5%、未定55.7%

2) 進歩派

1位 文在寅 36.9%、2位 安熙正 26.2%、3位 李在明 8.8%、4位 金富謙 2.4%

3) 第三勢力

1位 安哲秀 20.6%、2位 劉承旼 14.8%、3位 孫鶴圭 5.5%、4位 南景弼 3.9%、5位 金鍾仁 1.8%、6位 鄭雲燦 1.4%、未定52.2%

既に潘基文、朴元淳、金武星、元喜龍、呉世勲は不出馬を表明しているので、大統領候補はほぼ上記で出揃っている。

・大統領選の様相・予測

1) 文在寅52.3% vs 黄教安23.6%

2) 文在寅48.6% vs 劉承旼21.4%

3) 文在寅45.2% vs 安哲秀26.4%

4) 文在寅45.0% vs 黄教安20.5% vs 安哲秀15.1%

5) 文在寅43.5% vs 安哲秀16.3% vs 劉承旼14.6%

 

世論調査から明らかなこと

文在寅の圧勝: いかなる組み合わせにおいても、文在寅候補がダブルスコアで勝利。

安熙正↑と李在明↓: メディアの潮流が影響?軽視できる動きではない。

黄教安が朴槿恵の支持層を吸収: 劉承旼が保守・第三勢力から支持されている一方、黄教安は全体の支持率のみ高い→別の固定層の存在の暗示; ハンギョレ新聞は大邱慶尚北道、60歳以上の高年齢層からの支持率が高いことを紹介している。

 

潘基文が不出馬を宣言してみると、保守に対抗馬が存在しない。

文在寅、安熙正は共に故盧武鉉大統領に近い。今後、各候補者はよりビジョンを明確にしていくことを迫られるだろう。

果たして、現状から情勢が変化することはあるのだろうか。(そしてそれは日本に望ましい? or 望ましくない?)

 

*文在寅候補の新刊(正しくは他者執筆: 対談形式); 韓国では1500円強で購入可能。

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参考:Amazon.comMoonjaein Answer Korea Ask New Korea'