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台湾 蔡英文政権

蔡英文が総統選挙で当選してから早1年、5月20日の就任から7ヶ月半が経った。高い期待感を背負って総統に当選→就任した蔡英文であるが、今や支持率は30%以下まで下がっている(もっとも就任時には40%まで下落していた)。

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出典:TVBS民調報告より筆者作成。

今回は、蔡英文政権の内政について俯瞰する。

馬英九が再選を果たした2012年以降、成長率は下げ止まり: だいたい0~3%、若年失業率は高止まり: 絶えず10%以上、を記録した。就任式では、1) 経済構造の転換2) 社会のセーフティーネットの強化3) 社会の公平と正義4) 地域の平和的安定発展と両岸関係5) 外交およびグローバルな課題、を大きなテーマとして表明し、内外で構造転換を行う姿勢を示した。内政に関連する課題は1)~3)に当たるので、それらを中心に考察してみよう。

 

①経済構造の転換

2015~2016年の成長率は0%代に留まり、国際競争力の回復が求められていた。

まず、蔡英文政権が経済発展モデルへの転換として掲げているのが「五大イノベーション計画」バイオテクノロジー・アジアシリコンバレー・スマート機械・自然エネルギー・国防産業)+2(新農業・循環型経済)である。プロジェクト自体は各々批判を受けつつも着々と進んでいるように見える*が、自体が多額の税金の投入を必要とするために、社会的支持を得→効果の実現するまで、に時間がかかるという難点がある。

*沙崙科学城計画(2016年11月6日始動)、台湾国際農業開発股份有限公司の設立(2016年12月5日)、アジアのシリコンバレー執行センターの発足(2016年12月25日)「脱原発」法案の成立(2017年1月11日)等。

次に、参入障壁の低い多国間協定: TPP、RCEPへの参加に言及している。しかし、TPPはアメリカが離脱をし、RCEPはそもそも中国が参加を認めるのかという問題がある。「新南向政策」についても同様; 中国の妨害を受ける。

新たなイノベーションモデルが効果を発揮するまでが正念場となる。自由貿易とそれに伴う市場の拡大は、保護主義の蔓延・中国ファクターが作用するため順調とは言えない。台湾の低成長率が近未来に改善するとは思えず、蔡英文政権が経済で恩恵をあずかることは難しい: 低支持率に直結する経済の低迷であるが、耐え・忍ばなければならない。

 

②社会のセーフティーネットの強化

本人の回顧録によると、蔡英文は「セーフティーネット」という言葉が大好きらしい。

ここで最優先課題となるのは、年金制度改革である。

1) 不公平→軍人・公務員・教員には利子率18 パーセントの優遇貯金制度があり、支出を圧迫している。

2) 破綻の危機→日本以上の高齢化現象が財政を圧迫しており、おおよその年金制度は2020~2030年までに破綻すると予想されている。

国民党が優遇してきた軍人・公務員・教員は数としては少数に過ぎない。しかし、既得権益層は制度改革に猛烈に反対しており、昨年9月3日には15万人がデモ行進をした。

改革を進める上で、受給を遅らせ負担を増やす措置が必要となるが、こちらも一般市民の反発を招くことになるだろう。

そして現状においては、改革に対する不満意度(47%)が満意度(26%)を大幅に上回っており、2017年は年金制度改革で揺れる1年となることが予想される。

週休二日制の妥協案とされた、「一例一休」制度は立法院を通過した。同制度に関しては、得失点両論。東京外国語大学の小笠原先生は、「現場での混乱が続いて」おり、「蔡英文政権手痛い失点となった」とも評している。

③社会の公平と正義

この3つ目の要点に関しては比較的順調であるように見える。

国民党の不当財産については、「不当党産処理条例」を可決し、執行道中とはいえ移行期正義を前進させている。

また、蔡英文国家元首として初めて先住民に公式謝罪をし、「原住民歴史正義和転型正義委員会」を設置した。

移行期正義という問題は、他国の例からも明らかであるように、1つの過ちが分断を生み出す要因になる。慎重が要される項目ではあるが、成熟した台湾社会と蔡英文の政策は今のところ大きな反発を生み出していない。

同性婚の法制化はこの先数ヶ月が鍵となりそうだ。審議・協議中。

 

結論: ①・②・③より

蔡英文政権発足から7ヶ月半が経ち、改革としては、前進した項目もあれば停滞している部分もある。総統選挙勝利当初の期待感が高かったため、その反動として、支持率がある程度下がってしまうのは致し方ない。とはいえ、満意度28%・不満意度47%という現時点での数字は、かなり低いことに間違いなく、これ以上の下降は政権運営に支障をきたしかねない。支持率の低下は林全行政院長の不人気に負う部分も大きく、陳菊の登用という最終兵器もあるので、政権のレームダック化は当分起こらないと予測される; さらに、国民党はそれ以上の危機に直面している。しかし、8年の長期政権を見通す蔡英文政権であり、スタートダッシュの失敗が俎上に載せられた今、2年目のリカバリーは重要性を帯びるだろう; 対中関係含め、今後を占う1年となる。

 

韓国 大統領選挙

韓国の次期大統領選挙についてKBSが興味深いデータを紹介していた。

憲法裁判所が3月13日までに弾劾案の結論を出すと仮定する(→朴槿恵大統領の罷免)と、連休前の4月26日(水)に次期大統領選挙が行われることが濃厚とされている。

 

出典:KBS NEWS http://news.kbs.co.kr/news/view.do?ncd=3424269

・全体の支持率(2月5~6日)

→1位 文在寅 29.8%、2位 安熙正 14.2%、3位 黄教安 11.2%、4位 安哲秀 6.3%、4位 李在明 6.3% 6位 劉承旼 3.2%

・保守派、進歩派、第三勢力別の候補者支持率(2月5~6日)

1) 保守派

1位 劉承旼 20.6%、2位 黄教安 15.1%、3位 南景弼 6.3%、4位 李仁済 2.5%、未定55.7%

2) 進歩派

1位 文在寅 36.9%、2位 安熙正 26.2%、3位 李在明 8.8%、4位 金富謙 2.4%

3) 第三勢力

1位 安哲秀 20.6%、2位 劉承旼 14.8%、3位 孫鶴圭 5.5%、4位 南景弼 3.9%、5位 金鍾仁 1.8%、6位 鄭雲燦 1.4%、未定52.2%

既に潘基文、朴元淳、金武星、元喜龍、呉世勲は不出馬を表明しているので、大統領候補はほぼ上記で出揃っている。

・大統領選の様相・予測

1) 文在寅52.3% vs 黄教安23.6%

2) 文在寅48.6% vs 劉承旼21.4%

3) 文在寅45.2% vs 安哲秀26.4%

4) 文在寅45.0% vs 黄教安20.5% vs 安哲秀15.1%

5) 文在寅43.5% vs 安哲秀16.3% vs 劉承旼14.6%

 

世論調査から明らかなこと

文在寅の圧勝: いかなる組み合わせにおいても、文在寅候補がダブルスコアで勝利。

安熙正↑と李在明↓: メディアの潮流が影響?軽視できる動きではない。

黄教安が朴槿恵の支持層を吸収: 劉承旼が保守・第三勢力から支持されている一方、黄教安は全体の支持率のみ高い→別の固定層の存在の暗示; ハンギョレ新聞は大邱慶尚北道、60歳以上の高年齢層からの支持率が高いことを紹介している。

 

潘基文が不出馬を宣言してみると、保守に対抗馬が存在しない。

文在寅、安熙正は共に故盧武鉉大統領に近い。今後、各候補者はよりビジョンを明確にしていくことを迫られるだろう。

果たして、現状から情勢が変化することはあるのだろうか。(そしてそれは日本に望ましい? or 望ましくない?)

 

*文在寅候補の新刊(正しくは他者執筆: 対談形式); 韓国では1500円強で購入可能。

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参考:Amazon.comMoonjaein Answer Korea Ask New Korea'

 

最近のニュース&雑談 part 2

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出典:香港政府HP:http://www.info.gov.hk/gia/general/201701/27/P2017012700355.htm

 

タータンタララタッタン~♪梁振英(CY)の最後の新年挨拶が始まります。イェーイ、学生と自撮り→香港の1年が幕をあけましたよっと。

そうです、春節!ニュースは退屈: 民族大移動かお祭りか。梁振英行政長官の挨拶は1分、習近平は9分強、蔡英文は日本語のTwitter挨拶で世間を賑わせ、朴槿恵さんは정규재tvで新年挨拶代わりの反論。皆さんお過ごし方が異なるようで…そんな春節を挟んだニュースを今回はチェックしていきたいと思います。

 

・韓国

潘基文が帰国(1/12); 正しい政党(1/24)と連携するのでしょうか。しれっと朴元淳は不出馬表明(1/26)

<速報>潘基文が大統領選不出馬を宣言(2/01)

サムスン李在鎔副会長の逮捕状請求と棄却(1/16~19)趙允旋がブラックリストの件で逮捕(1/21)される。

長い間棚上げされてきたと聞いている慰安婦白書は女性家族部から格下げされた「研究報告書」として発行される模様(1/10)。少々失望。

 

・中国

北京市長に蔡奇、上海市長に応勇を選出(1/20)海軍司令官に沈金竜を任命(1/20)習近平派の登用と軍の先進化を着実に進めている様子。

習近平国家主席ダボス会議で演説(1/17)貿易総額の減少が明らかになり(1/13)、2017年の成長率目標は6.5%前後に下方修正するという観測もあります。遼寧省は統計水増し(1/17)という悪事を働く; 選挙買収に続く李克強の勤務地における不正は何かを示唆しているのか。

国家観察委員会が来年の全人代で設立(1/21)されるようです。習近平派の政治局常務委員がトップになりますね。

 

・香港

行政長官選挙の構図固まる: 林鄭月娥(Carrie Lam) VS 曽俊華(John Tsang)。親中派が一本化に失敗すれば、民主派の300人強がキャスティングボードを握ることになるが、曽俊華という民意の反映は難しいかもしれない。

梁國雄(Leung Kwok-hung)はいつもの通り小道具で、劉小麗(Lau Siu-lai)はCYに対し録音攻撃→乱闘騒ぎ。資格剥奪の危機にある4名(下の写真を参照)は活発に動いている。社会民主連線・香港衆志は今後とも中国政府の標的となるのでしょうか。先日はデモ行進を決行→警察に行く手ふさがれる→劉小麗が声明文を読み上げ→解散。案外おとなしい。

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出典:on.cc 東網 http://hk.on.cc/hk/bkn/cnt/news/20170121/bkn-20170121142220888-0121_00822_001.html

 

・その他

日本・・・プライマリーバランスの悪化: 20年度の赤字6.4 or 8.3兆円?(1/20, 25)

北朝鮮・・・プルトニウムの保有50kg(1/11)、次に発射するのはICBMかムスダンか。

台湾・・・脱原発が可決(1/11)頼清徳台南市市長が来日記者クラブでの会見、小池知事と懇談等を行う。

 

以上、手短にまとめてみました。

以下、2点について簡潔にコメント。

①トランプ大統領の政策(仮説)ーー安全保障と経済

国際環境における制約が外交の継続性を担保するという主張(『国際政治』第177号)はドナルド・トランプに当てはまらないようだ。

12月2日のトランプー蔡英文電話会談に衝撃を受け、あわててAlexander Gray, Peter Navarroの論文(Foreign Policy)を読む。それから、TPPの離脱・NAFTAの再交渉、米英首脳会談における"NATO100%信頼"への対応を見て1つの結論に至った。

彼はまず相互依存の考え方を否定している。論文が主張しているように、TPPNAFTAは経済的損失をアメリカに与える一方、安全保障における利得を付与していないと理解しているのだろう。あくまでも力が平和の源泉となるのであって、その力とは国力=軍事力+経済力。そうしたリアリズムに基づいた対中政策: 現時点におけるパワーバランス: 米国>中国。様々な"赤字"は総合的な観点からアメリカの国力を奪っているという判断→是正。全ての分野における対外収支の"黒"がアメリカの繁栄(America First)に貢献するという考え: 赤か黒かの世界は単純明快で受け入れられやすい。その裏に伝統的な共和党の主張; 覇権主義の維持が隠れている: レーガンの原理"We will make america great again"、"Peace through strength"。負担の平等の実現→国力に勝る1強アメリカ優位の勢力均衡の維持・再建を目指している。

 

②韓国の政治未来予想ーー台湾を参考に 

次期大統領は文在寅「共に民主党」前代表が最有力でしょう。潘基文の不出馬には驚いた!ここでは野党から次期大統領が選出されたと仮定して、韓国の政治未来予測を試みる。2016年5月発足した蔡英文政権を参考にする。

1、政治は大統領1人で行うものではない。多くの政治家・官僚を登用する必要がある。共に民主党系は過去10年野党だった; この状況は台湾と同じで政策実行能力を担保するために、多くの経験豊富な実務家を配置することになる。ところが、この手法こそが新鮮味に欠け、まず支持者の失望を買うことになるだろう。台湾の場合、林全行政院長は元はと言えば、陳水扁時代の財務部長。文在寅大統領の場合、盧武鉉時代の古参の政治家が再び表舞台に出てくることになる。若者の盧武鉉個人に対する評価は異様に高いと感じるが、それはおそらく他の政治家に結びつくものではない。何も変わり映えしないではないか→まずこれで支持率が下落します。

2、野党系の大統領は改革断行を試みるでしょうが、改革には抵抗があり、法律を通さなければならないので、簡単に進行しません。これも台湾が良い例です。今のところ、国民党の不当な財産を取っ払ったくらいでしょう。台湾と同等もしくはそれ以上にイデオロギー対立の大きい韓国、立法機関における条件は台湾の民進党より分が悪いことを考慮すると、台湾以上に改革が進まない可能性は大いにあります→特に若者の不満が増えることが予想される。

3、現状の経済の混乱; サムスンの一連の出来事もあり、年始早々、韓国中央銀行は今年の成長率の見通しを引き下げました。有権者が一番重視する政策は経済で、その成果が一番の支持要因となるのですが、残念ながら過去と比べて非常に暗い。一朝一夕で上昇する類の指標ではなく、次期政権は経済で悩まされる可能性が高い。国民は崔順実ゲートに反省し、他方「共に民主党」の政治に耐えることが出来るのか。一日における爆発力ではない有権者の長期的な寛容性にも左右される。ポジティブな点は株価が高値を維持していること。

1~3より

一般的に考えて、韓国の次期大統領は困難な舵取りを強いられるだろう。筆者は上記を韓国の「構造的欠陥」と結び付けて考えている。文在寅が蔡英文(小英)以上に愛されキャラになり、ノサモ・ノプン以上の国民運動に恵まれれば、安定政権を築くことが出来ようか。少々ネガティブ過ぎる?

 

台湾・香港 独立の可能性について

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写真は左→游蕙禎(Yau Wai-ching)右→梁頌恒(Sixtus Leung)

香港の議員宣誓問題: 青年新政ー梁頌恒&游蕙禎は議員宣誓無効に異議を唱えて、終審法院へ上訴申請している。1) 申請が最終的に認められるのか 2) 判決はどのように下される 3) 判決後の青年新政の対応は。

出典: wikipedia https://zh.wikipedia.org/wiki/%E9%A6%99%E6%B8%AF%E7%AB%8B%E6%B3%95%E6%9C%83%E5%AE%A3%E8%AA%93%E9%A2%A8%E6%B3%A2

 

台湾・香港において、独立派の勢いが増している。

2014年、雨傘運動・ひまわり学生運動が起こり、民主派勢力が伸長→若者を中心とした独立派は共感を得、延いては政界にまで影響力を持つようになった。

台湾では時代力量が5議席(113)を獲得し、香港では反中勢力が6議席(70)を獲得した; その内の2議席は現在空席ー青年新政: 梁頌恒&游蕙禎ー。双方共に独立を主張している; 時代力量は「台灣的國家地位正常化」、青年新政は「重奪屬於我們的香港」を掲げる。

時代力量 New Power Party https://www.newpowerparty.tw/

青年新政 Young Spiration http://youngspiration.hk/

 

今回は、台湾・香港における "独立"について考えてみたい。はじめに台湾・香港が持つ特殊な環境について整理し、次にアイデンティティと世論に目を向ける。

 

①台湾と香港の特殊な環境

台湾と香港が起これている状況は根本的に違う。

台湾・・・中国は台湾に直接影響力を行使することが出来ない; 台湾総統は台湾が実効支配している区域の住民によって選出されている。台湾は独自の軍隊を保有しており、例えば中国が攻撃を加えたならば、諸外国の反発が予想される。いくつかの国際機関に加盟またはオブザーバーとして参加しており、20程の国々とは国交がある。国家の三要素「領土・国民・主権」を備えている。

香港・・・中国の国土の一部; 独立を支持する国はおそらく少ない。香港は「高度な自治」を2047年まで保つことが権利として認められているが、香港基本法全人代の解釈に依存しており、共産党の意向が反映される。行政長官は共産党の支持が無ければ当選が難しい。香港を守る軍隊は人民解放軍である。

独立という観点から台湾と香港を比べると、香港がより厳しい環境に置かれている事が分かる。

 

アイデンティティと世論

台湾政治大學選舉研究中心 http://esc.nccu.edu.tw/app/news.php?Sn=166

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香港大學民意研究計劃 https://www.hkupop.hku.hk/chinese/popexpress/ethnic/index.html

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双方とも緑の分布を見てほしい。台湾人・香港人意識の変遷を辿ることが出来る。台湾人意識に関しては1992年~右肩上がりであることが確認できるだろう。一方香港では、返還当初高かった香港人意識は2000~09年にかけて退潮し、2010年以降再び上昇していることが分かる。

先行研究によると、台湾において、純粋に台湾人化(中華民国の台湾化)が進んでいると解釈できるが、香港では大陸の急激な成長に伴う格差の縮小が香港人意識の減退を招いている側面が指摘されている。加えて、地元愛としての香港人意識が幅広く共有されている; 独立とは一線を画す香港人意識がある。多くの台湾人は"現状維持"を望んでいるが、それは個人の自由が保障され、事実上の独立を得た台湾の"現状"であり、台湾国家感を共有していると理解できる。

 

結論:①・②より

台湾>香港ー台湾にポジティブな要素を発見しやすい

台湾は独立国に果てしなく近い状態であり、台湾人アイデンティティも高まっている。一方、香港は高度な自治区にとどまり、香港人意識は高まっているが下落することもある。また独立国としての香港とは異なる地元愛としての香港人意識も強い。

 

もちろん現実では、台湾及び香港が独立を果たす可能性は極めて低いだろう。なぜなら、台湾や香港は中国にとって"核心的利益の中の核心"であるからだ。

当記事を通して結論付けることが出来る1つのインプリケーションは、香港で目下行われている独立派の活動が実に難しいタスクであることである。ドメスティックな要因のみを考慮しても香港において共通理解を得ることは簡単ではない。ただそれは、青年新政の活動が蛇足であることを意味している訳ではないということも述べておきたい。

 

北朝鮮 金正恩体制

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出典:AFP BB NEWS http://www.afpbb.com/articles/-/3093174

 

金正恩体制へと移行して早5年が経過した。

その間に、特に人事においては目まぐるしい変化が起きている。北朝鮮のような独裁国家: 金王朝、そして謎に包まれた金正恩という人物を理解するために、まずは人事に焦点を当ててみることにする。なぜなら、昇進・粛清の頻度と登用された人物の経歴は金正恩体制の方向性を理解する手助けとなるからだ。もちろん「労働新聞」等、一次資料に沿った分析は不可欠であるが、筆者の能力を超えているのでご容赦願いたい。次に、金正恩体制の方向性についてまとめる。金正恩が"核と経済の「並進路線」"において採ってきた政策を整理したい。そして最後に、金正恩体制の安定性について述べる。北朝鮮崩壊論は妥当なのか否か考えてみたい。

 

金正恩体制における人事

金正日総書記は生前、金正恩体制を支える推戴勢力を構成したとされた。主要人物は金正日総書記の霊柩車につき従った以下の人たち。

李英鎬・・・軍総参謀総長「次帥」、党政治局常務委員、党中央軍事委員会副委員長。

金永春・・・人民武力部長。「次帥」、国防委副委員長、党政治局員。

金正覚・・・軍総政治局第1副局長。「大将」、国防委員、党政治局員候補党中央軍事委員会委員。

禹東則・・・国家安全保衛部第1副部長。「大将」、国防委員、党政治局員候補

張成沢・・・党行政部長。国防委員(→副委員長)、党政治局員候補党中央軍事委員会委員、党書記。

金己男・・・党宣伝扇動部長。党政治局員、党書記。

崔泰福・・・最高人民会議議長。党政治局員、党書記。

引退禹東則(2012年初め粛清)、李英鎬(2012年7月粛清)、金正覚(金永春の後任→2012年10月解任)、張成沢(2013年12月処刑)。

金永春(2012年4月解任)→要職には就いていないが、2016年4月人民軍元帥に昇格。

現役→金己男崔泰福は現在序列6位・7位; 彼らは2011年時の地位を維持している。

共通項粛清の対象は軍人が多い。短期間に昇格・降格を繰り返す。党関係者の処遇変化は少ない

 

上記で金正恩体制初期の人事についてまとめてみたが、なぜ軍人が粛清され、党関係者に影響を及ぼさなかったのか、金正恩本人の権力掌握過程から見ていく必要がある。

2009年1月、金正恩が後継者に指名された。後継者が公式デビューを果たしたのは2010年9月:「大将」に昇格、党中央委員、党中央軍事委員会副委員長(新設)に任命された。金正日体制期機能していなかった党大会、全体会議など公式政策決定機構を正常の戻し、職責を付与することで金正恩の後継体制に正統性を与えようとしたのである。

金正日体制は一般に「先軍政治」「側近政治」であったと言われている。軍の影響力が増す一方、朝鮮労働党の指導部には欠員が増え、組織は形骸化していった。2010年9月に開催された党代表者会は44年ぶり、党大会レベルの会議としては1980年以来だった。

金正日は国防委員長(事実上の国家元首)として、また党規約を改正することでナンバー1である自身の地位を誇示する一方、権力実態の薄かった党に後継者の権力基盤を築こうと試みた。後継者時代が長かった金正日とは違い、若くスイスに留学していた経験もある金正恩には頼りになる側近が少なく、親の権威を頼りに1から基盤を作っていく必要があったと言える。金正日は生前、軍における自身のプレゼンスを放棄しようとしなかった。それは共産圏の崩壊と天安門事件を含む反乱において軍が決定的な役割を果たしたことを記憶しているからだろう。

その結果、短期間の金正恩継承体制づくりにおいて、金正恩本人は自身の影響力を軍に及ぼすことができなかったと言える。一切の影響力を父である金正日が保持しており、李英鎬の抜擢をはじめとして、金正恩後継の推戴勢力に含まれた軍人には金正日の色が濃かった。金正日の死後、金正恩は党・軍・国家のすべての指導的地位に就任するが、当初軍における支配は他に比べ不安定であり、ポストを頻繁に回すことによって、徐々に金正恩は軍に対する権力も掌握していった。

 

現在の政治局常務委員

金正恩・・・党委員長。「元帥」、国務委員長、党中央委員長、党中央軍事委員会委員長、軍最高司令官

金永南・・・最高人民会議常任委員長。

・黄炳瑞・・・軍総政治局長。「次帥」、国務委員会副委員長、党中央軍事委員会委員

朴奉珠・・・内閣総理。国務委員会副委員長、党中央軍事委員会委員

崔竜海・・・党副委員長。「次帥」、国務委員会副委員長、党中央委員会副委員長

 

金永南には外相を長く勤めた経験(1983~98年)がある→名誉職としてのポストが与えられ、ナンバー2にとどまり続けているが、実質的な権力は持たないとされる。長老。金己男は弟。

黄炳瑞金正恩体制で権力核心に加わった新進エリートである。高英姫との縁や金正恩との個人的な関係がある人物とされている。生粋の軍人ではないが「次帥」軍総政治局長という重要なポストを担い、実質のナンバー2とされている。

内閣総理に朴奉珠が起用されたのは過去にも内閣総理の経験(2003~07年)があることに加え、金正恩体制の経済重視の姿勢が実務家登用を促したお陰だろう。

崔竜海の父はパルチザン世代の崔賢である。金正日体制期に「社労青(現在の「金日成社会主義青年同盟)」から頭角を現した。張成沢に近い人物であることあり、昇格と左遷を多々経験→現在の地位に納まっている。

 

金正日体制とは異なり、軍人が政治局常務委員に就くことはなくなった。その背景には金正恩国務委員長の党及び実務家重視の姿勢がある。金正日は軍または人事に関する報告は必ず目を通していたが、経済に関しては側近に任せていたという証言がある。スイスへの留学経験がある金正恩は人民の生活を重視しており、経済政策に力を入れていると言われている。

 

金正恩と現体制の政策志向

先程述べたように、金正恩が経済政策に力を入れていることは間違いない("核と経済の「並進路線」")。ここで、現状の経済発展について簡単に振り返ってみる。

金正日体制で、北朝鮮は「苦難の行軍」(1990年代後半)という危機を経験した。しかし、この「苦難の行軍」といわれる状態は体制移行期までには脱していたようだ。ただし、経済成長は相変わらず鈍く、金日成が50年以上前に提示した「白いコメのご飯に肉のスープ」という目標さえ未達成のまま; 人民は貧しく、テクノロジーが発展した今、情報の流入は人民の反乱の一要因ともなり得る。金正恩は人民の満足を得るために経済成長が不可欠であると考えている。

2013年、"核と経済の「並進路線」"が提示され、2016年5月の第7回党大会で「並進路線」は強調、党規約に盛り込まれた。2012年「新たな経済管理体系」(6.28方針)では、現場の権限を拡大し、2014年「5.30談話」によって、広くインセンティブが行き渡るようにした。「社会主義的経済運営」を保ちつつ、"ウリ"式成長を金正恩体制は目指しており、統計によれば、現状成長率は1%程度といったところである。成功とも失敗とも言い難い。

かつて北朝鮮の貴重な収入源は諸外国による支援であった。金正日体制期には核開発と言うカードを使って譲歩を引き出し、現物及び外貨を得ることによって収入を賄っていた。金正恩は核・ミサイル開発を進め、対話を拒絶しているようにも見える。核・ミサイルは後継者の権威づけの手段にもなっている。しかし、別の角度から見ると、朴槿恵が苦境に陥り乱暴な核・ミサイル発射を控えるようになった。金正恩体制に移行した2011年末以降、アメリカは「戦略的忍耐」、韓国は「非核・解放・3000」、「朝鮮半島信頼プロセス」という名の非妥協政策を採ってきたので、対話・譲歩の余地が少なかったとも言える。

その意味では、韓国において進歩系の次期大統領が誕生した場合、金正恩がどのような対応を模索するのか大変興味深い。というのも、北朝鮮の核放棄も現実味が無い、そして、権威づけに用いられている核・ミサイル開発を停止することは金正恩の正統性にも関わってくる問題であるからである。従来通り、核開発の中断(もしくは廃絶)を条件に経済支援を受けることになるのか(→そして反故にされてきたというのが従来の流れでもあったが)、実質的に交渉は受け付けないという立場を採るのか、まだ明らかではない。

朴槿恵政権誕生の際の先行事例を見る限り、何かしらの挑発を行い、対応を見極めようと行動をとることは予測できる。しかし、一国家としての北朝鮮がどこに重点を置くのか: 核なのか経済なのか、金日成体制時の「並進路線」が最終的に軍事支出に偏りを見せたように、北朝鮮も決断に迫られることになるのではないか。昨今の軍事演習では空軍の活動が控えられていた; 軍事用の燃料が不足していたからだと言われている。制裁の影響力がどれ程大きいのかについてはまだ議論の余地があるが、制裁が全く無意味であるはずもなく、一定程度北朝鮮経済に悪影響を与えているとすれば、金正恩は舵取りする必要が出てくることになる。バランスの変化は確実に生じてくる。

 

北朝鮮崩壊論と現体制の安定性

北朝鮮に関して、真っ先に議題としてあがるのが"北朝鮮崩壊論"の是非である。

金日成死去と「苦難の行軍」時に高まった崩壊論は、一度収まりを見せたが、金正日の健康悪化と比例して、再び加熱した。現在の専門家の意見は五分五分、判断が難しい。

朴槿恵大統領によれば、北朝鮮には体制崩壊の兆候が見えるという。

昨年2月、金正恩国務委員長を呼び捨てで呼び始め、9月には「金正恩の精神は統制不能」であると、敵対心むき出しの格好で避難した。韓国における北朝鮮の動静報道は想像を超えて豊富である。一方、若者の北に関する関心は非常に冷めているという、何とも言い難い現状。ここで韓国に言及することは当記事の射程を超えるので控えたいと思うが、朴槿恵大統領の一連の北朝鮮に対する発言と非難は現状認識から若干浮いているようにも見えた。

筆者は、北朝鮮が崩壊する可能性は低いと思っている。金正恩体制5年間の統治と人事・政策を考慮すると、今後15~20年は現体制が維持されるのではないか。継承から5年が経ち、金正恩は体制を固めることに成功したという結論は早計かもしれない。しかし例えば、①黄長燁のような政府高官の脱北は今のところ見られない、②ソ連や中国とは異なり、人民の生活を統制しているように見える北朝鮮レジームからは反乱が起こる確率は低い→万が一蜂起が実現したところで、朝鮮人民軍が鎮圧をする。

内部崩壊論は根拠が薄くはないか。国際環境の大幅な変化がない限り: 中国の政策が18転換されることを意味するのだが、北朝鮮は現体制を維持し続けるだろう。

 

主要参考文献は以下の通り。

・平井久志『北朝鮮の指導体制と後継ーー金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫、2011年)。

・玄成白『北朝鮮の国家戦略とパワーエリート』北朝鮮難民救援基金翻訳チーム訳(高木書房、2016年)。

・磯崎敦仁、澤田克己『北朝鮮入門ーー金正恩体制の政治・経済・社会・国際関係』(東洋経済新潮社、2017年)。

 

中国 南シナ海問題

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出典:常設仲裁裁判所  PCA Press Release: The South China Sea Arbitration https://pca-cpa.org/en/news/pca-press-release-the-south-china-sea-arbitration-the-republic-of-the-philippines-v-the-peoples-republic-of-china/

 

2016年7月12日、常設仲裁裁判所は中国の主張「九段線」を根拠に乏しいと退けた。

しかし、中国の海洋進出は留まるところを知らない。

最近では、空母「遼寧」が東シナ海→太平洋→南シナ海を航海し、対抗策を持たない台湾及び東南アジア諸国は脅威を与えた。

1974年 西沙(パラセル)諸島全域支配

1988年 南沙(スプラトリー)諸島6ヶ所占拠

1992年 在比米軍撤退→1995年 ミスチーフ礁占拠

2012年 スカボロ礁事実上支配 2014年~ 南沙諸島の埋め立て

仲裁裁判所の判決知ったことか、埋め立て→軍事拠点化を着実に進めている。

CSIS Asia Maritime Transparency Initiative https://amti.csis.org/

中国は南シナ海問題を「核心的利益」と位置づけており、域外国の干渉: つまりはアメリカや日本の介入には神経を尖らせる。

 

ここで南シナ海の歴史について簡単に振り返ってみよう。

日本が第二次世界大戦で敗戦を喫し、南シナ海の領有権は宙に浮いた状態となった。フランスはインドシナ戦争に忙殺されており、当該国は浮かぶ島々に特別大きな関心を示していなかったと言える。トマス・クロマによる「フリーダムランド」所有宣言という茶番もあった。もちろん今では、様々な歴史・知識を駆使した領有権主張がなされているので、(特にフィリピンは)「フリーダムランド」を無視することはできないのであるが。

南シナ海の領有権争いがその性質を変化させたのは、潜在的な海底油田の可能性が指摘された1968年以降だ。そしてそれを複雑にさせたのは石油メジャー。中国は特にその石油資源を欲していた。北ベトナムとの関係悪化&アメリカ軍の撤退が中国の作戦的優位な環境を作り出す→慎重に準備された作戦と紛争を経て、1974年、中国は西沙諸島を支配下に置くことに成功した。1980年代、中国が南沙(スプラトリー)諸島の領有権争いに加わった時には、すでにメインの島々は他国の領域と化しており(中華民国: 太平島(イツアバ島)、フィリピン: パグアサ島)、中国はちっぽけな"土地"しか手に入れることができなかった。そして残念ながら仲裁裁判所の判決で"岩"なり"低潮高地"と認定されるわけである。1988年、中国が南沙諸島の一部を極めて巧妙にベトナムから奪い取った。海洋調査の一環と称して、ファイアリークロス礁に観測所を建設→クアテロン礁へ上陸→ジョンソン礁での衝突→中国海軍の勝利という変遷を遂げた。ちなみにこれらの"岩"となった。1995年、フィリピンの対米感情に起因する在比米軍の撤退に機を得た中国はミスチーフ礁を占拠した。ミスチーフに関してはフィリピンのEEZ内であるという判決が出ている。

 

常設仲裁裁判所には"島"であると認めないことによって当該国の紛争を避けたいという意図があったようだ南シナ海最大の面積を持つ太平島(イツアバ島)=東京ディズニーランドバチカン市国、さえ"島"と認めなかった。中国は仲裁裁判所の判決で大きな痛手を負った。フィリピンの主張が認められることによって; どの国がどの岩を所有していようが、周囲の海域に対する権利は了解として認められた半径12カイリ以内の範囲に限られる→中国が実行支配する"岩"からただ12カイリ以上離れていれば良い。公海に所有権はない。

 

ところで、1970年代~南シナ海の所有権争いが過熱していった理由は新たなエネルギー資源の可能性であると述べた。しかし、ビル・ヘイトン『南シナ海』(2015)によれば、今までの資源開発はとてつもない金額のお金を浪費しているだけで、大した石油ガスは発見されていない(ただし、2016年トンキン湾付近で大型油田が発見されたというニュースはあった)。それが現在においてはエネルギー資源以外の様々な要素も領有権争いに絡むようになった。当該国のナショナリズムは合理性に欠いていても領有権の妥協を許さないだろう。アメリカ・日本は航行の自由を求めている。中国とアメリカ(未加盟)の国際海洋法の解釈は大きく異なり: 中国は自国のEEZ内及びその上空における他国の軍事活動を認めていない。中国が南シナ海を支配することによって、グローバル・コモンズが失われることを危惧している。中国は「九段線」に沿った自国の領域を主張しているが、実はこれには「戦略的あいまいさ」が含まれている; なぜなら国際海洋法に合わせて主張を修正した場合、浮かぶ土地周囲の狭い領域にしか主権が認められなくなってしまうからだ。

 

中国海軍の目標→1) 2020年までに第二列島線制海権、2) 2049年までにアメリカ海軍と対峙、は日本の報道に触れていると、順調に進んでいるように見える。しかし、アメリカとの海軍力の差はいまだ致命的なほど大きい。だから、中国は「非対称戦」を試みているのであって、海南島付近の深海に潜水艦基地を設け、核の地下格納施設を建設する一方で、サイバー攻撃を行い宇宙の開発に力を入れる。現在の南シナ海における中国の行動は台湾・ベトナム・フィリピンといった国々に威圧感を与えることが目的と言った良い。例えば、ウッディー島、ファイアリークロス礁、スカボロー礁を結ぶ「戦略的トライアングル」が完成したところで、現代の軍事技術では動かない基地はただの良い標的にしかならない。もし戦闘が起こったとしても、中国軍はこれらの基地防御のために大規模な戦力を割かないであろう。ただし、これらの基地は隣接する国々にとっては大きな脅威となり、空母「遼寧」はそれらの技術を持たない各国には大きな威圧となる。東南アジア諸国の軍隊は汚職にまみれていたこともあり、かなり軟弱だ。特にフィリピン軍はガラクタ同然とも言われていて全く対抗できそうもない。現状を考慮すると、ドゥテルテ大統領が中国に歩み寄って経済的利益を得る一方、領有権に関しては争いを避け棚上げする姿勢を保とうとするのは合理的とも言えようか。

 

ASEANと中国は2002年に「行動宣言」を締結した。そして今、法的拘束力のある「行動規範」の議論を加速させている。ただし、それは共同開発の場合と同様で、係争中の他国の主張するEEZ内でという条件付きの合意にしか興味がないだろう。あくまで予測でしかないが、中国は自国のEEZで「行動規範」を守る義務はないと考えている。そしてそうした条件下では他国の同意を得ることは大変難しい。どのようなラインで合意に達するのか非常に興味があるトピックだ。

 

大局的に見れば、南シナ海問題は米中の覇権争いが一番表面化する場である。中国にはまだその戦力を核心的利益以外に投射する能力がなく(それ故に国連やその他の国際機関において中国はロシアや災いをもたらす北朝鮮に比べて"よい子"だと思われている)、特殊事例としての台湾を除くと、南シナ海が顕在する対立の場となる。中国は南シナ海におけるアメリカの関与を拒絶し、目標に向かって突き進む。どの程度アメリカは中国の戦力強化と南シナ海における支配確立を許容するのか、米中は南シナ海において利害共有という概念を持つことができるのかが焦点となる。

 

南シナ海問題の当事者は少なく見積もって、1) 中国 2) 台湾 3) フィリピン 4) ベトナム 5) ブルネイ 6) マレーシア 7) ベトナム 8) インドネシア。二国間の領土問題さえ解決することが難しいのに、多国間の領土問題が解決することがあるだろうか。エネルギー資源、ナショナリズム制海権…様々な要素が入り込んでいる。こういった問題に関しては、地道に協議を重ねて(「行動規範」のような)合意に至る(「行動宣言」のように)しかないのですが、全く前途が見えない。どのように解決するのだろうか、難しいが知恵を絞り、人間の知能が平和的解決をもたらすことを望みたい。

 

以上の記述における参考文献として2冊挙げときます。

・ビル・ヘイトン『南シナ海ーーアジアの覇権をめぐる闘争史』安原和見訳(河出書房新社、2015年)。

・アンドリュー・J・ネイサン、アンドリュー・スコベル『中国安全保障全史』河野純治訳(みすず書房、2016年)。

 

日本 野党論と民進党

今回は、野党の役割について考えてみる。

蓮舫さんが民進党の代表になり、3ヶ月以上が経過しました。しかし、民進党の支持率は低空飛行を続け、国民の期待は萎んだままです。

なぜ民進党は「水中に沈んでいる」(野田幹事長)のか、その原因について検討します。

 

吉田徹『「野党」論』(ちくま新書、2016年)では以下、3つの野党の役割が述べられている。

①権力に与っている与党に対し異議申し立てをすること

②争点を明確化するということ

③「民意の残余」を代表するというもの

*「野党性」・・・権力の主体(政府与党)が実現したいと思うことに対して、それを様々な方法と手段をもって変化、修正、妨害させる力

 

現在の民進党を採点するならば、①△②×③×

その理由としては

党としての統一見解が不明確・・・蓮舫さんは政策ではなく、人気に対する期待がベースで圧倒的な支持を受けた。民進党は寄せ集め集団→多数のグループがあり、統一見解をプッシュしていくことが難しい現状。

そもそも民進党は「保守」ではないかという疑問・・・蓮舫代表自身が自らを「保守」であると明言しており、自民党との違いをアピール出来ていない。

 

以上が簡単な結論ではありますが、

次に①民進党と派閥、②民進党の政策志向についてもう少し砕いてみましょう。

 

民進党と派閥

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 出典:産経ニュース http://www.sankei.com/politics/news/161002/plt1610020026-n1.html

(この図解で特徴的なのは、1) 野田Gと岡田Gを分けていること→通常は野田Gで一括り、もしくは岡田さんは無派閥。2) 旧維新Gが主流派と非主流派に分裂していること→両者中立と見てよいと思う。)

 

まず、保守系→リベラル系に並べてみた。

長島G 6人長島昭久ー最も保守色が強い

前原G 約20人前原誠司保守系では最大勢力、安住淳代表代行

野田G 約15人野田佳彦蓮舫代表

維新派 23人江田憲司松野頼久ー現時点で最大勢力

細野派 約15人細野豪志

大畠G 約15人ー大島敦ー鳩山Gや管G出身者も多い、大畠章宏国交省

民社党系G 約10人高木義明ー旧同盟系、川端達夫

社会党系G 約15人赤松広隆サンクチュアリ、最もリベラル

ここで注意すべきポイントは全く政策指向で主流派と非主流派が区別されていないことでしょう。そしてスイングする。一般論として、大人数の政策集団と体をなさなければ、党として一致団結することは難しいのではないでしょうか。

 

民進党の政策志向

例えば細野Gまでを「保守」と仮定するならば、党所属議員の6割程は保守と言える。民進党はおおよそ150名の集団なので、80~100名は保守派と言えるかもしれない。

枝野前幹事長は以下のような発言をしている。

「安倍政治を支えている人たちは、安倍自民党が『保守』だと勘違いしている。ここを引きはがさなければ勝てない。われわれこそが保守なんだと言わないと勝てません」。

(2016年6月5日「6・5全国総がかり大行動」)

発言の妥当性はともかく、枝野さんですら「保守」を自任していることが分かる。

しかし、相対するのは保守本流の安倍自民党政権。具体的な対抗策に欠けがちだ。

民進党政策集 2016 C:Users amaiAppDataLocalMicrosoftWindowsINetCacheIENHFGIJML民進党政策集2016.pdf

(2) アベノミクス失敗への対応
1)消費税引き上げを延期し、暮らしを立て直します。

以下の4 点を前提として、引き上げを2019 年4 月まで2 年延期します。

2)マイナス金利は撤回させます。

 マイナス金利は撤回させ、金融政策は現状を踏まえ、より柔軟に行うよう
促します。

例えば、「アベノミクス」という争点について、アベノミクスの代わりにどのような施策を推進するのか説明していない。追随しているようにさえ見える。

具体論に関しても、消費税ではもはや違いを見いだせず、マイナス金利では「より柔軟に」という言葉で方策を論じていない。

民進党が「保守」ならば、財政規律に基づいて、論拠を示しつつ消費税の増税は致し方ないという路線を採用することも可能だった。そもそも蓮舫代表及び野田幹事長は財政規律派ではなかったかと思う。一方、「革新」と言うならば、大きな政府を提唱しても良いだろう。

現体制は、違いと共に争点を明確化することに失敗している。「保守」を掲げている以上、「革新」の残余をすくい上げる役割も期待できない。

 

結論: ①・②より

グループ再編と統一見解の明確化が必要である。IR推進法案のようなドタバタを防ぐことはもちろん、方向性を示す→党としてのビジョンを明らかにしてほしい

安倍政権に被せたような「保守」では野党の機能を果たせない。そして「保守」を掲げ、反対するのみでは説得力に欠ける。極端なことを言うと、「保守」を自任するならば自民党員になればよいではないかとなる。民進党が野党であるためには、別のイデオロギーを示さなければならない

 

最後に、野党とメディアについて

自民党のメディア支配は目に見えないが進行しているように見える。例えば、白紙領収書を含めた政治資金の問題は報道が矮小化されてはいないか。野党にはメディアの報道の大きさ、つまりは国民への影響力と言う視点を度外視して、適切な問題提起を行ってほしい。

先行研究が、選挙における(特に無党派層が多い日本では)中立志向の政党の優位性を証明しているが、二大政党制を前提に考慮されている制度上、与野両党が中立では違いが不明瞭で議論が矮小化されかねない。理想は保守と革新両党が議論の上、妥協して中立に落ち着くことではないかと思う